第21回『このミス』大賞 1次通過作品 イックンジュッキの森

舞台はアフリカのコンゴ
ボノボ調査隊を幻の生命体が襲う
企業と研究者と野性の論理がバトルする刺激作

『イックンジュッキの森』美原さつき

 大学院で霊長類学を研究する父堂季華。彼女が属する研究室に、米国企業からコンゴでの道路建設に関するアセスメントへの協力依頼が舞い込んだ。ボノボへの影響を見極めようというのだ。指導教官や先輩と共に現地に飛んだ季華は、米国企業が率いるボノボ調査隊に加わった。彼等は、ボノボの生息地を目指してコンゴの大地を進む……。
 まずはユニークな題材を描ききる筆力が素晴らしい。アフリカの大地を、大型霊長類たちを、癖の強いキャラクターたちを、著者はきっちりと描写している。説明文を連ねるのではなく、その行動や情景を丁寧かつ適切に語ることで、読者を現地に連れて行ってくれるのだ。
 また、的の絞り方も堂に入っている。シーン毎に、読者に何を伝えるかがきちんと整理されているのだ。例えば、父堂季華の過去を紹介したり、惨殺されたヒョウの姿を通して未知の生物の存在を仄めかしたり、調査隊と孤独な少年を遭遇させ、彼の故郷を滅ぼしたという“悪魔”を読者に印象付けたり、だ。個々のエピソードが刺激的にくっきりと語られており、安心して読み進められるのだ。
 プロットの大枠としては、現地調査が進むにつれ謎が増大していくという展開であり、個別エピソードの魅力にも支えられて十分に合格点なのだが、本作では、そこに未知の生命体によって調査隊や現地の村人たちの命が危険にさらされるというサスペンスも加わってくる。読書の愉しさが倍増するのだ。
 未知の生命体についていえば、危機を生じさせる役割を果たすだけでなく、研究者に新発見の喜びをもたらす役割も果たしており、その研究者の熱気が読者にも伝わってきてワクワクさせられる。さらに、その生態に関する謎ももたらしてくれるのだ。この謎も合理的に解かれていて嬉しい。さらに付記するならば、“悪魔”の正体も意外でよい。もう一つ付け足すならば、企業の論理と学者の論理、さらにはアフリカの野性の論理のせめぎ合いも味わえる。ピリオドも納得のいくものだ。
 という具合に魅力満載で、個性が際立つ小説なのだが、定型的なミステリを期待する読者にとっては、あまりにも異物だ。そこが二次選考会でどう評価されるか心配である。とはいえ、これだけの小説である。推すしかない。

(村上貴史)

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