第21回『このミス』大賞 1次通過作品 龍の卵(ドラゴン・エッグ)

台湾、中国、日本にまたがる謀略
東アジアの動乱の影にあるものは……?

『龍の卵(ドラゴン・エッグ)』竹鶴銀

 国と国にまたがる謀略を描いた作品である。ロシアのウクライナ侵攻以降、「次」の危機が起こりうる地域として注目を集める台湾を中心に、中国や日本の政治情勢を揺さぶる企みが進行する。
 ある失敗で週刊誌との契約を打ち切られた滝口は、台湾総統選挙のニュース映像に、かつて震災で津波に流されたとばかり思っていた友人・王思明の姿を見つけた。彼に会おうと台湾に向かった滝口は、選挙運動の集会で爆弾テロに遭遇する。そのころ、中国・新疆では左半身に大火傷を負った女性をリーダーに、ウイグル族が反乱を起こす。一方、人民解放軍の一部も不穏な動きを見せ、さらに日本でも報道機関を狙ったテロが起きる……。
 台湾を訪れて謀略に巻き込まれた日本人を中心にしつつ、新疆ウイグル自治区の動乱や人民解放軍の動き、さらに日本国内の混乱からアメリカ・国連本部での駆け引きまでを同時進行で描いてみせる。
 クライマックスで台湾政府が行う仕掛けも巧妙だ。ある海外作品やある史実を連想させるが、そこに日本が関わることで、皮肉の効いた展開に仕上がっている。
 謀略の「黒幕」に相当する人物の輪郭があまり見えてこないという弱点はあるものの、最後まで一気に読ませる国際謀略スリラーだ。

(古山裕樹)

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