第21回『このミス』大賞 1次通過作品 レモンと手
肉親を殺された女が真実を追う
巧みなプロットの異色スリラー
『レモンと手』くわがきあゆ
保険外交員・小林妃奈の刺殺体が山中で発見された。大学に勤める姉の「私」こと小林美桜は、妃奈が保険金殺人犯だったという報道に接し、大学生の渚丈太郎とともに無実を突き止める。ほどなく音信不通だった母の訃報が届き、二人を殺したのは十年前に父を殺した男・佐神翔だと考えた美桜は警戒を強めるが、大学構内で意外な男に命を狙われる。美桜はそこで連続殺人の真相を知り、妃奈の秘められた素顔に気付くのだった。
身内を次々に殺された女が意外な事実に辿り着く──その経緯を綴った物語である。胡乱な面々によって不穏なムードを醸し、ミスリードを伴う逆転劇を経て、語り手のメンタリティを照らすプロットはすこぶる秀逸。驚きの演出だけではなく、ニューロティックスリラーの味を加えたセンスも好ましい。直接的な推理の材料ではないが、序盤に伏線が張られている点にも留意すべきだろう。
著者は二〇二一年に『焼けた釘』で第八回暮らしの小説大賞を獲得しているが、本賞とは切り離して考えたい。他の作品も読みたいと思わせた時点で、次の段階に進む資格は十分にあるはずだ。
(福井健太)