第21回『このミス』大賞 1次通過作品 漆黒の虹

同僚殺しの容疑者にされたOLが
IT企業の闇に触れるサスペンス

『漆黒の虹』橘むつみ

 IT企業を休職している高木春子の遺書らしきメールが、メーリングリストを通じて一万人以上に送信された。同僚の高宮証は友人のウィリアム・グッドマンと雑談を交わし、AI開発プロジェクトの噂を耳にする。その翌日、証は警察に呼び出され、春子が証の口座に入金していたと知らされる。春子が顧客情報を売っていた疑惑が浮かび、殺人と服務規程違反を疑われた証は調査を始めるが、直後に「高木春子の自殺の原因は、加藤行平だ」というメールが拡散された。しかし春子の死は他殺であり、証は同僚の加藤に話を聞くものの、状況は不可解さを増すばかりだった。
 IT業界の陰謀を背景として、渦中のヒロインを描くサスペンスである。主人公を巻き込む段取りは悪くないが、重要な証拠が降ってくるプロットはミステリーとして弱く、最後に明かされる思惑にも新味はない。一人称視点の制約はあるにせよ、情報を示すタイミングの不親切さも気になるところだ。
 とはいえ構成に大きな破綻はなく、水準以上の表現力は窺える。キャラクターの魅力や明快さを伴う”読者へのもてなし”を意識することで、エンタテインメント作家として覚醒する下地はあるだろう。大幅な改稿を前提としたうえで、ひとまず二次選考に残しておきたい。

(福井健太)

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