第20回『このミス』大賞 1次通過作品 切断
つぎつぎと見つかる切断された死体の謎。
裏社会の住人が刑事に告げる、まさかの犯人と動機とは?
『切断』岩崎綾
雑木林のなかから黒いポリ袋に入れられた男子学生のバラバラ死体が見つかる。胴体と二の腕には死後に付けられた火傷の跡、手首と足首と足の付け根には生前に付けられた縄の跡が残されていた。男女の刑事コンビ――浜野と沢田が捜査を始めると、別の雑木林からやはり黒いポリ袋に入った女性のバラバラ死体が。こちらは頭部がなく、火傷の跡もない。さらに今度は、繁華街のゴミ置き場で刺青の入った男のバラバラ死体が発見される。同一犯によるものか、模倣犯の仕業か?
すると捜査に行き詰まっていた浜野のスマホに、三つ目の事件が起きた繁華街一帯で力を持つ裏社会の住人――有馬からメールが届く。浜野と有馬は高校時代からの腐れ縁で、追う者と追われる者になったいまでもズルズルと関係が続いていた。有馬に接触した浜野は、ある取引を持ち掛けられる。そして浜野に、つぎの殺人を示唆する謎のメールが……。
今回拝読した応募作のなかで、もっとも光る才能を感じた。まず文章がいい。余計な装飾や独りよがりな筆の滑りもなく、適度な硬度と短いセンテンスを保ったまま冷静に話を進めていく手際のよさと抑制は、この文体を選んだセンスも含めて、とても十八歳とは思えない。登場人物を少数に絞り、「犯人は何者か」「なぜ死体を切断したのか」という点に読み手の意識を集中させ、臆せず勝負する潔さにも好感を覚えた。
ただし欠点がないわけではなく、前述の美点と引き換えに物語の奥行きや人物の立体感が欠けてしまっているのが惜しい。たとえば裏社会の人間がまとう不穏な空気、犯人の純粋であるがゆえの切実な想いといったものが肌で感じられるほどには迫って来ない。探偵役を務めるダークヒーロー有馬の危険な悪の魅力と浜野に向けるやさしさ、自らの真っ直ぐな正義より裏社会に生きる有馬の大きな力を羨ましく思う浜野の複雑な内面など、もっともっと引き出して見せて欲しかった。読みたかった。
ともあれ、著者の将来性も含めて二次に推さない理由はない。いい書き手に育って欲しいと切に願う。
(宇田川拓也)