第20回『このミス』大賞 1次通過作品 少女たちの秒針

ノストラダムスの大予言まで、あと一年。
異様な殺人事件をめぐる少女たちの推理と恋の行方は?

『少女たちの秒針』雨地草太郎

 ノストラダムスの予言が一年後と迫った、一九九八年七月。高校生の遠坂風音は入院先の病室で、同じ学校に通う小笠原詠、その妹の光と知り合う。数日後、病院の屋上で光の死体が発見される。首を絞められたのち、ロープでフェンスに縛り付けられた異様な姿で。
 空から降ってくるという“恐怖の大王”への供物か? 終末思想に囚われた何者かによる犯行が囁かれるなか、夏休みも終わり、迎えた二学期。風音は憧れの同級生である熊谷火日輝と自分がカップルのように見えるとクラスメイトから指摘される。火日輝に向けていた親しみの気持ちが、じつは恋愛感情だったことに気が付く。ところが、病院での事件を振り返った際、火日輝に対する重大な疑念が浮かび上がり、さらに予言を強く信じていた女子生徒の死体が桜の木に縛り付けられる事件が……。
 普段の振る舞いの裏側で、身体の悩みや過去の痛手、将来への不安に心を乱している繊細な女子高生たちの丁寧な描き方に、まず目を惹かれた。思春期の未成熟な心理が物語の重要なカギとなるため、手順としても正しいと思う。謎の提示、場面や人物の印象付け、謎解きの進め方にも、他の応募者よりずっと書き慣れている印象を覚えた。
 ただこうした美点が、解き明かされるすべての説得力を支え切れているかというといささか苦しく、力業で押し切ってしまった感が拭えない。また同性愛を扱っているが、(著者の意図は想像できるものの)物語に不可欠とまでは思えなかった。とはいえ、筆力は一次選考を通過するに充分なレベルであり、二次に推すことにためらいはない。

(宇田川拓也)

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