第20回『このミス』大賞 1次通過作品 ダイナマイトにつながったまちがい電話

間違い電話が、暗殺組織の殺し屋と一般人を結びつけた。殺し屋は口止めを図るが、一般人はなんと、殺し屋になることを志願した……。

『ダイナマイトにつながったまちがい電話』遥田たかお

 きっかけは間違い電話だった。その電話によって、暗殺組織に属する殺し屋マドラーの存在が、豪田貴臣という一般人に知られてしまったのだ。しかも、二人は顔見知りだったのである。もちろん貴臣はマドラーの“本業”を知らないが……。マドラーは素性を隠して、あるいは間接的に貴臣に接し、口止めを図るが、想定外の方向へと二人の関係は転がっていった。貴臣が殺し屋になりたいと言い始めたのだ。かくしてマドラーは貴臣との対面を避けつつ、電話でのやりとりを通じて、貴臣の殺し屋としての適性を探ることになる……。
 物語が動き出すきっかけは、小説の冒頭に記された間違い電話である。偶然で動き出すわけだが、この偶然は許容範囲。本作ではそこにもう一つの偶然が重なってくるのだ。貴臣の心の奥底にあるものと、この間違い電話がきっかけとなった殺し屋との関係が結びついて、貴臣の殺し屋への志望動機が生まれるのだが、この偶然+偶然は、二次選考での弱点となってしまうだろう。いずれも“通常は起こりえない”レベルの偶然だけに、どちらか一つに絞る工夫があればよかった。
 という苦言から始めてしまったが、物語は序盤から勢いよくころがり始め、その後もスピードを失わずに走って行く。貴臣が訓練をかねて命じられた暗殺を決行すべく進んでいくというストーリーに、マドラーとライバルが繰り広げる殺し屋同士の争いが絡みつき、さらには、登場人物たちの騙し合いも盛り込まれている。そこに12年前の殺人事件までもが影を落としてくるのだ。読者を退屈させない仕掛けがふんだんに盛り込まれたエンターテインメントなのである。なかなかに達者な造りであると評価したい。
 全体を貫く“ぼやき系”のユーモアもよい。暗殺だとか復讐だとか、とかく重苦しくなりがちな題材を扱いつつ、このユーモアによって、テンポの良さに相応しい軽さを、著者は物語に与えているのである。それ故に、苦言として記した偶然+偶然がさほど目立たなかったりもする。
 いい娯楽小説だ。

(村上貴史)

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