第20回『このミス』大賞 1次通過作品 彼女は二度、殺される
基本に忠実な謎解き論理+奇想の誠実な小説
『彼女は二度、殺される』浅葱惷
超能力や不可思議な現象など、特殊な設定を用いて謎解きの幅を広げようとする作品が近年注目を集めている。その範疇に入る作品で、傀々裡という死者を一時的に蘇らせる能力を持つ白夜が探偵役を務める。何者かに殺害された娘・真珠を蘇らせるべく白夜が周防家を訪れると、死体は傀々裡が不可能なほどに損壊されていた。
何者の仕業であるかを白夜は推理することになる。殺人と死体損壊という二つの行為が推理の対象となるわけだ。本作で評価するのは、探偵役の人物が常に論理的に頭を働かせていることで、行き当たりばったりで決断する場面がない。先人の作品を読めばわかるのだが、特殊設定ミステリーといっても推理の材料として供されるのは現実的な手がかりがほとんどで、論理を構築していく上で通常とは異なるピースが必要となったときに現実を超えたものの出番となるのである。特殊設定を用いた応募作のほとんどが、その逆を行っており、現実に則って推理を進めるという土台の部分をないがしろにしていることが多い。その悪弊とは無縁で、よく推理を組み立てていると感心した。けっこうな人数の容疑者が登場するが、アリバイ調べなども十分に行っているし、きちんと物証も呈示される。結論の美しさは今一つだと感じたが、そこに至るまでの手数の多さは美点だと言える。
ここまでくると、特殊設定を使わずにこの作者には普通のミステリーを書いてもらえまいか、という注文までしたくなる。今後の課題はそこだろう。飛び抜けたところのあるわけではなく、構成部品のほとんどは既存のものを集めただけ、という点にも若干の不満がある。論理展開のうち一つでも他にない着眼点があれば、もっと深く印象に残る作品になっただろうと思う。しかし、誠実そうな作風を今回は買ったのだ。ますますご精進を。
(杉江松恋)