第20回『このミス』大賞 1次通過作品 12月の僕は、7月の君に会いに行く

時を超えて出会った彼女に恋をした。
僕はタイムトラベルを繰り返し、
彼女との未来を掴み取る。

『12月の僕は、7月の君に会いに行く』夏目璃子

 表紙には人物と空のイラスト。そんなイメージが浮かんでくる。
 大学受験を控えた柊輔は、大晦日の夜に赴いた神社で祈った瞬間、急な暑さに包まれた。彼はいつのまにか七ヶ月後の世界にいたのだ。大学には合格し、一人暮らしをしているという。その部屋に向かうと、見知らぬ女の子が出てきて唇を奪われる。女の子は真尋といって、大学で出会った柊輔の彼女だった……。
 物理学者の父による実験の影響で、定期的にタイムトラベルに遭遇することになった主人公。時間を進むこともあれば遡ることもあり、過去の行為によって未来が変化する。そんな中で、時間を行き来しながらベストの未来を掴み取ろうとする物語だ。
 柊輔がベストを目指すのは「真尋との未来」だけではない。家族の不和に友人たちの関係と、柊輔の前にはいくつもの課題が積み重なる。それゆえに複雑な構造を持つ物語なのだが、そのあたりを複雑に見せずに読ませるところが作者の腕前だ。
 どこかで見たような物語ではある。だが、見たくなるような物語を仕上げてみせた作者の力量に期待したい。

(古山裕樹)

通過作品一覧に戻る