第20回『このミス』大賞 1次通過作品 不動の諜者
元警察官の異色アイドル鈴代瀬凪が、
芸能界にはびこる違法薬物を巡る犯罪を調査する
意外な展開とアクション満載の痛快なエンターテインメント
『不動の諜者』柊悠羅
アイドルグループMy Selectionの不動のセンター鈴代瀬凪(すずしろせな)。警察学校出身の元警察官という異色の経歴を持つ彼女は、メンバーの一人・竹田愛奈がTVプロデューサーからもらったお香に覚醒剤が混入されているのではと疑い調査を始める。高校時代に親友を薬物中毒で亡くしていた瀬凪。違法薬物を憎む気持ちが人一倍強い彼女は、警察学校時代の友人で生活安全部の刑事・吾妻の協力を得て、芸能界に蔓延する覚醒剤の供給元を突き止める。だが、彼女の動きを察知した敵は思い切った反撃に出る。
ここまでが物語の序盤戦。この後、作者はあっと驚くギアチェンジを行い、本格的に瀬凪の活躍がスタートする。これには驚いた。芸能界と放送業界に広がる薬物汚染の深い闇を巡って繰り広げられる大がかりな陰謀と暗闘、逆転に次ぐ逆転。複雑に入り組んだプロットを組み上げる力量と個性的なキャラクターを造形する力、コロナ下の社会情勢を踏まえた上で、時事問題に目を配りつつ、あくまでもエンターテインメントに徹して読者を楽しませようとする姿勢に好感を持ちました。読者を驚かせようとするあまり、ミステリとしてややアンフェアな記述もありますが、全体的に一次通過作としての水準はクリアしています。
(川出正樹)