第20回『このミス』大賞 1次通過作品 妻が人を殺しています

平々凡々な男が美人と婚約するが
彼女が人を殺しているところを目撃してしまう
婚約者の正体は、なんと殺し屋だった?

『妻が人を殺しています』秋野三明

 何をとっても平均値、まったく冴えない男が、超美人の春(はる)と婚約。既に同居を始め、結婚も間近。友人からはメチャクチャ羨ましがられる。
 ところがある晩、家の近くの公園を突っ切って帰宅しようとしたところ、暗闇の中で人が殺されている現場を目撃してしまう。しかも、その殺人者の後姿はどう見ても愛する婚約者だったのだ。
 遠回しに相談した友人に説得され、春を信じることにする。彼女の発案でフィリピンへ婚前旅行に行くことになった。だがホテルに到着するや、二人は襲撃される。その後も発生する出来事はヒートアップ。危ない連中もぞろぞろと登場。そんな中、春の本当の身の上が段々と明らかになっていく……。
 アクション、見せ場たっぷりの娯楽作。読んでいてひたすら楽しい。シチュエーションは独自性が高いとは言えないが、個性は充分に出ているだろう。
 今回、一次選考を通過した『ぬるま湯にラジオ』と同じ作者である。欠点も、ほぼ同じと言える。基本的には三人称なのに、主人公の視点からほぼ一人称で書かれている部分が大半なこと。日本語の使い方があちこちおかしいこと。本作を商品化するには、この両者については修正が必須である。
 梗概について。近年、肝心の犯人や結末が書かれていなかったり「あるもの」「ある人物」などとして内容の一部を伏せたりしている場合が増えている。小説賞で添付が必要とされる梗概は本のカバーや帯に書かれている内容紹介とは別物なので、そのように伏せる必要はない。むしろ、全て書いて頂きたい。その点、本作に付された梗概はきちんと犯人やラストまで書いてあり、好印象だった(『ぬるま湯にラジオ』でも同様)。
 以上を勘案し、こちらも合否ボーダーライン上かと判断したが、作品傾向的には「このミステリーがすごい!」大賞向けだろうとも思われる。よって、一次選考通過とした。
 今回受賞しなかったとしても、この調子で書き続ければ(かつ欠点を克服すれば)いずれプロ作家デビューのコースに乗ることができるのではないかと思われる。精進して頂きたい。

(北原尚彦)

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