第18回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史

『ソノラの聖母たち』森谷祐二
『幽霊女』雀村惹句
『海辺のクラムチャウダー』花ノ宮凛
『嵐山に死す』茶町野良
『吹きだまり診療所』白夜禾人
 
 今回の一次選考は、愉しく読める作品が多かった。それらを紹介していきたい。
 森谷祐二『ソノラの聖母たち』は、メキシコを舞台に病んだ社会をを描いた大変な力作で読み応えがある。だが、すべての人物やエピソードを全力で描いていて、物語としてのメリハリに欠け、また、進行も遅い。エンターテインメントとして勝負するのであれば、これらは改善に必要があるだろう。
 雀村惹句『幽霊女』には個性的な魅力があった。ちょっとしたサプライズが、まったく想定外の方向から襲ってくるのだ。それも、ガツンとくるのではなく、コツン、あるいはコツといった程度の驚きである。ただし、小説の流れがぎこちなく、キャラクターも、それぞれに生きてはいるが描き分けがもう一つ。結末も尻すぼみ。それでも、この人の小説をまた読んでみたいと感じた。
 花ノ宮凛『海辺のクラムチャウダー』はよくできた小説であった。だが、ミステリ味が薄く、しかも後半に無理矢理付け加えたような異物感があった。序盤から全体に溶かし込めば、この賞においても評価できたかもしれない。とはいえ、この著者の才能を活かすには、ミステリにこだわらない方がよいかもしれないとも思う。
 茶町野良『嵐山に死す』は1980年代の京都を主な舞台とした活劇小説だ。心地よく読ませてくれる。主人公のスタントマンが一人で活躍する際のテンポの良さが、集団行動になるといささか淀むのが残念。過去が過去のまま描かれており、懐かしくは感じるが、新鮮さには欠けた。
 白夜禾人『吹きだまり診療所』は、刑務所内の医療という題材に魅力を感じた。後半にはそれなりにミステリ要素も盛り込まれてくる。一方で前半はミステリ的要素に欠けるが、新人医師と獄中の元敏腕医師との交流などで読ませる作りで、全体としてまずは満足。冤罪問題を決着させたり、単にいい話にしない“毒”もあったりと、愉しめる要素は揃っていた。なので、その見せ方を磨けば、二次に推せる作品になったであろう。
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