第18回『このミス』大賞1次通過作品 厄介者
かつては暴力団の鉄砲玉、現在は幽霊と同居する土木作業員を、過去は放っておかなかった。
軽妙と壮絶が同居した希有な一作。
『厄介者』滝沢一哉
千葉は、かつては北見市の暴力団、奈良組の構成員だった。17年前、鉄砲玉として敵対する山菱組の組長を殺した罪で服役し、2年前に娑婆に戻ってきた。そのときには既に奈良組は解散しており、千葉は土木作業員として生計を立てていた……。
なんだ、よくある元ヤクザ小説か、などとは思わないで戴きたい。千葉が2年前から暮らし始めた部屋には、幽霊がいるのだ。女性の幽霊だが、首から上がない。千葉はその幽霊にレイコと名をつけ、奇妙な共同生活を営んでいた。
そのレイコがある日、子供の幽霊を連れてきた。どうやらその子供は殺されて幽霊になったらしく、レイコは千葉にその事件を解明して欲しいようだ。「勘違いするなよ、気分だからな」と千葉は告げ、伝手をたどって情報を集め、真相究明に挑む……。
これが本書の序盤で描かれるエピソードである。減らず口をたたきながら、彼なりの正義感で行動する千葉の姿が、軽妙に描かれている。当たり前の小説ではないことがよく判って戴けるだろう。千葉は、続いてもう一つ幽霊がらみの事件を解決するのだが、本書は、そのパターンの繰り返しで成立しているわけではない。千葉の日常に山菱組が割り込んでくるのだ。このギアチェンジも実にスムーズだ。そして物語は壮絶さを増していく。
千葉は、拉致され、殴られ、蹴られ、指を落とされ、背中の皮を剥がれる。こうした暴力描写は実に生々しく、痛みは読者にくっきりと伝わってくる。著者の筆力の確かさがよく判るシーンが連続するのである。
そうした筆力に加え、千葉の過去やレイコという要素をしっかりと物語のなかに必然性を持って配置していく構成力を著者が持っていることも、この作品を読み終えると理解できる。奇を衒っただけではないのだ。さらに、時折顔を出すとぼけた小さなサプライズも心地よい。多様な魅力で結末まで一気に読み進めることができる一作であった。
(村上貴史)