第18回『このミス』大賞1次通過作品 15 seconds gun ―フィフティーンセカンズガン―
この銃で殺せば、相手はもともと存在しなかったことになる。
そんな魔法の銃を手に入れたアキラは、繰り返し人を殺す。
意外な展開を愉しめるテンポよい小説。
『15 seconds gun ―フィフティーンセカンズガン―』荒木孝幸
永岡アキラが偶然手に入れた銃には「15 seconds gun」という言葉が刻まれていた。これは何を意味するのか。アキラはそれを理解できなかったが、銃は銃である。そしてアキラには殺したい人物がいた。妹の唯を死に追いやった権藤である。彼を殺すべく、銃を隠し持って家を出たアキラだったが、目的を果たす前に、別の人物を殺す羽目になってしまう。そしてアキラは銃に刻まれた言葉の意味を知った。この銃で殺された人物は、そもそも存在しなかったことになってしまうのだ……。
テンポのよい一作である。前半は、魔法の銃を手に入れたアキラが、あれやこれやと人を殺してしまう姿を描いている。その「あれやこれや」のアイディアが豊富である点が魅力であり、そのうえで、そうした行動を繰り返すアキラの心が摩耗していく様子もきちんと語っている。それ故に、まったく飽きずに読み進むことができるのだ。
そして後半に入ると著者は、別の視点人物を登場させる。蛍という男だ。蛍はある種、特別な人物であった。世間の誰にも影響は与えないが、ただ一人、アキラだけに対しては意味を持つ知識を、彼は持っていたのだ。彼が登場することで、後半は全く違うスリルで展開していくことになる(もちろん例の銃を活かしながらだ)。なんとも巧みな構成である。そして終盤では銃のもう一つの秘密が明らかにされ、アキラは絶望に追い込まれることになる。そう、手を替え品を替えしつつ、著者は読者を愉しませ続けてくれるのだ。
銃という特殊な要素が持ち込まれてはいるものの、それを除けば物語は現実社会できちんと成立している。同時に銃の魔力もしっかり定義されているので、読み手も混乱することがない。むしろ、その定義が新たな驚きや危機を生んだりしていて、さらなる愉しみを与えてくれている。
テンポよく意外な展開で読者を魅了するこの作品、少々著者に都合よく偶然が生じている点は気になったが、二次に推すことをためらうほどの傷ではなかった。
(村上貴史)