第18回『このミス』大賞1次通過作品 イベントホライズン
大規模テロの跡地に生まれた、不法移民たちの異国――。
その謎めいた女性は、人類が宇宙を切り拓く鍵となるのか?
『イベントホライズン』石澤明
政府が道州制を導入し、ひとびとを「純血」「準国民」「移民」に階層化した社会。
三十年前に起きたシナガワ火力発電所爆破テロにより焦土と化した土地には、不法移民たちが異国「ワンガン」を作り出していた。
中部州からワンガン探索に訪れたタカは、そこで「エイ」と呼ばれる女性アカリに出会う。彼女は、ここで生きる子供たちのリーダー的な存在だった。
アカリからの奇妙な申し出を受け、一夜を共にしたタカは翌朝、なぜか公共警察による襲撃を受ける。その直後、首相の更迭と自殺を告げるニュースが!
ワンガンに身を潜めていたアカリが政府や大国から狙われる理由とは……。
まず、若々しい生気を感じさせる文章に惹かれた。そして、閉塞した階層化社会、日本的要素が多言語地域のなかで歪に変化したワンガンの雰囲気には、どこか既視感が邪魔をして斬新とはいい切れないものの、新人賞応募作としてはよく練られていて、その点にも好感を覚えた。
人種、国、技術、意識、進化といった知的テーマを、文章のテンポを落とすことなく絡め、物語に落とし込む手際のよさに牽引され、するすると読まされてしまったが、難をいえば終盤の展開はいささか慌ただしく、壮大な物語の序章といったラストも想定できてしまい、せっかくならもっと目新しい画を見せて欲しかった。とはいえ、今回拝読した応募作のなかでは、もっとも読ませるエンタテインメントであったことは間違いない。
(宇田川拓也)