第18回『このミス』大賞1次通過作品 テトリス・ペレストロイカ
亡命者の娘を守れ!
冷戦末期、米ソ情報機関が入り乱れる謀略戦の結末は……?
『テトリス・ペレストロイカ』天田洋介
テトリスというゲームは、ほとんどの方がご存知だろう。このソ連生まれのゲームが日本にも上陸し、ブームを巻き起こしていた1990年ごろを背景とした物語である。
荒川亮が率いる双六通商は、駄菓子屋の経営から中古品の輸出入まで手がける零細企業。だが、その正体はアメリカの国家安全保障局(NSA)の末端組織だった。ある日、中古品を載せたアメリカから届けられたコンテナの奥に、白人の少女が一人きりで潜んでいた。彼女の名前はラウラ。父のボリスラーフは、もともとはソ連からの亡命者で、その後CIAに所属し、亮とも顔見知りであった。そして、彼女が携えていたノートには、奇妙な図形が描かれていた……。
と、ここまではほんの序盤。ラウラの身柄と秘密の図形をめぐる争奪戦は、やがて海を越えて、歴史的な事件の背後へとつながっていく。
商売人でもあるスパイと、頭の回転が速い少女が、謀略の渦巻く中で巧妙に立ち回る。冷戦が終結に向かい、ソ連が解体へと向かう時代。作中の対立構造も、アメリカのCIAとソ連のKGBが対峙するという単純なものではない。アメリカ側もソ連側も決して一枚岩ではなく、さまざまな思惑や主義主張を抱えた者たちの複合体なのだ。
入り組んだ状況を描きつつ、物語そのものは、亮とラウラの冒険を中心に据えたシンプルなものに仕上がっている。
現代の視点から描いた、およそ30年前の物語。ラストの着地に、その後の世界の変化が重なり合う。
(古山裕樹)