第18回『このミス』大賞 次回作に期待 福井健太

『特等席のカーテンコール』渡辺砂丘
『預言侵害』南原詠
『とんびの頭上』仁瀬由深
 
 エンターテインメント小説を世に出すことは、対価を取って娯楽を提供することだ。赤の他人が書いた”そのテキスト”に対して、自分の財布から金を払うかという観点に立てば、求められるハードルの高さは明白だろう。好きなものを書くことは大切だが、客観性の重要さは揺るがない。サービス業の自覚は必要なのである。
 今年度の「次回作に期待」には三作を挙げた。渡辺砂丘『特等席のカーテンコール』は、宗教団体を追放された教主が詐欺師集団と手を組み、教団を奪還しようとするコンゲームもの。プロの語る詐欺哲学、共犯者と心を通わせるプロセス、お約束めいた逆転劇まで、安定感のある読み物になり得ている。したがって基本点は高いのだが、依頼人の境遇は珍しいものの、総じて型通りを脱していない感が強い。あと一押しが欲しいところだ。
 南原詠『預言侵害』にも新興宗教が登場する。宗教団体が家電製品の内部処理に関する特許権を主張し、メーカーの侵害を訴えるという策略はユニークだが、プロットがいささか単調。第三勢力の介入、想定外の事態などを盛る余地はあるはずだ。題材や情報は興味深いだけに、この方面の専門知識を活用し、物語やキャラクターに工夫を凝らした次作を待ちたい。
 仁瀬由深『とんびの頭上』は老婆の住む邸宅にまつわるサスペンス。庭から女の手首や生爪が発見されるなど、不気味さの演出には見るべき点もあるが、ミステリーとしては一本調子に映る。容易に想像のつく真相をいきなり示すのも物足りない。しばしば段落の頭を下げず、疑問符にスペースを加える表記は(修正は容易だが)小説では避けるべきだろう。しかし”場”を構築するスキルは高く、勘を掴めば大化けする可能性はありそうだ。
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