第18回『このミス』大賞 次回作に期待 杉江松恋

『狩人の血統』刈間剛史
『隻眼鯉』磯山遼
『ふりつもる星のレゴリス』横田シュン
 
 応募作全体に共通することですが、本賞は長篇を対象にしているので、アイデア一つの思いつきだけでは一次通過も難しいということを改めて書いておきたいと思います。残念な作品は読み始めてすぐに、ああ、あれをやりたいんだな、という作者の狙いが透けて見えます。落選作の場合、その予想はほぼ外れることがないのです。あなたの思いつきは、他の誰かの頭にも浮かんでいると考えたほうがいい。それをどのように料理するか。登場人物や書き方、アイデアの組み合わせといった工夫がない限り、頭一つ抜けた作品にはならないと思ってください。それは読者を楽しませるということとほぼ同義でもあります。
 私の担当分のうち、今年の「次回作に期待」は三作でした。
「狩人の血統」は民間警備会社に属する人物を主人公としたアクション・スリラーです。こうした作品は継続的に書かれており、先行作との差異を出すことが重要だと思っています。冒頭の数ページを読んで、これはいいかな、と思ったのですが、その緊密さが続かない。状況説明と類型的な登場人物による会話で埋め尽くされてしまい、独自性が消えてしまいました。すでに筋立てを組み立てて思うように運ぶ筆力はある方だと思います。それをいかに魅力的に描けるか。骨格ではなく肉づけの部分この方の課題でしょう。
「隻眼鯉」題名の奇妙さにどんな話なんだろうとまず好奇心を掻き立てられました。片目の鯉の由来を知って納得。このネーミングセンスは貴重だと思います。本編はいわゆるヤクザものなのですが、ありきたりの展開にはならず、主人公に伝奇ロマン風の変わった過去を持たせたところがいい。出てくるヤクザも大量コピーされたキャラクターではないのです。書かれた内容に今一つリアリティが感じられなかったのが残念で、筋立てにも無理を感じました。その点を説得力のある形でお書きになればさらに化けると思いました。ご自分だけの犯罪小説を書いていってください。
「ふりつもる星のレゴリス」アイデア量では群を抜いている作品だったと思います。内容は詳しく書きませんが、地球ではない天体を舞台としたSFで、その星で生きる知性生命体たちの設定などに独自性がありました。作り込んだ設定の割りには謎の種明かしに魅力を感じなかったのが残念ですが、結末に行きつくまでの展開、特にアクションなどにそれを補完するような魅力があれば加点評価で一次通過としていたかもしれません。また、キャラクターの平板さも気になりました。こういう話であれば、中心になって読者の記憶に残る登場人物が絶対に必要だと思います。
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