第18回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦

『赤と紺』藤川海辺

 

 まずは前年、第17回の補足から。わたしが一次選考で通過させた作品のひとつ『怪物の木こり』(倉井眉介)。一次通過作品決定後にどうも記憶にひっかかるものがあったため、剽窃などがあってはいけないと確認したところ、その前年(つまり一昨年)にわたしが一次で担当したものの、通過には至らなかった作品を全面的に書き直したものでした。その旨は最終選考に間に合うよう連絡を回しましたが、それを踏まえた上でも大賞を受賞ということになりました。
 第15回の『がん消滅の罠 完全寛解の謎(応募時タイトルは『救済のネオプラズム』)』(岩木一麻)も過去落選作をブラッシュアップしての投稿・受賞だったわけですが、やはり全面的に書き改められていました。
 このように、かつての落選作で再応募することは禁止されていませんし、受賞することもあります。ですが、「別な一次選考委員に当たれば通るかも」と、全くそのまま再度送ることはやめてください。改稿が行なわれていなければ、誰が選考しようと同じことです。
 それでは、今年の応募作につきまして。これまでに何回も書いていますが、小説を書こうと思ったら、普段からなるべくたくさん本を読んでください。応募作を読んでいて「この方は、あまり本を読んだことがないのではないか」と思われるものが幾つもありました。本を読まずして、本を書くことはできません。インプットなくしてアウトプットなし、です。小説に親しんでいれば、自分の作品のおかしいところにも気がつくはずです。
 さて、今回の「次回作に期待」作品は、『赤と紺』(藤川海辺)です。
 高校生・浅野雄大は父の康介と二人暮らし。雄大の同級生・三谷紗英は母の薫子と二人暮らしだった。夜、康介はいつも薫子のスナック『毒の花』で飲み、雄大と紗英は店の隅で勉強していた。
 ある時、雄大と紗英は女性が倒れているのを発見する。彼女は酷く殴打された挙句、顔面には硫酸をかけられていたのである。だがその現場からは、雄大の父・康介が犯人であることを示唆する証拠が発見されたのである……。
 テーマは現代的で、着眼点はよいと思います。謎の部分も、悪くありません。ただ、文章力にまだ難有りです。読んでいて、分かりにくくてひっかかる「描写」があちこちにありました。物事の「形容」の仕方など、気をつけるようにすると良くなると思います。またセリフの中に、誰が喋っているのか把握しにくいところがありました。慣れないと難しいかもしれませんが、自分の文章を客観的に読み直す鍛錬をすると、おかしい箇所に気がつくはずです。
 先述したように、たくさん本を読んで下さい。そして、するする読める小説の文章と自分の小説の文章、どこが違うかよく考えてみて下さい。
 ……と、本稿を書いていて気がついたのですが。本作は第65回江戸川乱歩賞の一次予選を通過した作品ですね(二次は通過せず)。同賞の最終結果発表が今年の6月6日。こちら(第18回「このミス」大賞)の応募〆切は5月31日。期間が重なっていますが、確認したところ乱歩賞の一次・二次予選の結果が発表されたのは5月22日ですので、ぎりぎり「二重投稿」でないと見做すことにします(二重投稿の場合、「次回作に期待」でコメントを受ける権利も喪失します)。しかしいずれにせよ、同じ賞なり別な賞なりに同作品を投稿するならば、じっくりと書き直してからにすべきです。落選してすぐ別なところへ、というのはやめておいた方がいいです。
 ふたつの賞に落選して納得して頂けたと思いますから、一旦この作品はしまっておいて下さい。そして、新たな作品をどんどん書いて下さい。それが、作家デビューへの一番の早道です。一層の文章力をつけてデビューできたら、この作品を取り出してみて、その時の実力で全面的に書き直して下さい。そうすれば、デビュー後の「使えるタマ」になる可能性があります。がんばって下さい。
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