第18回『このミス』大賞1次通過作品 魚鷹墜つ
オスプレイという世間の関心を集める航空機を題材にした
密室状態の機内が舞台のスリラー
『魚鷹墜つ』岡辰郎
「オスプレイダウン」とルビが振られているように、自衛隊への大量導入が決まった垂直離着陸機を話の軸とする小説である。航空機動衛生隊の鬼嶋三佐が機長を務めるオスプレイが、小笠原諸島の母島に降り立つところから話は始まる。緊急を要する重症熱傷患者を搬送するためだ。母島からは他にも手術を待つ患者が乗り込んできた。搭乗員を含めた10名を載せて、オスプレイは再び舞い上がる。本作は、密室状態の機内を舞台としたスリラーなのである。その飛行はすぐに不穏なものに変わる。患者の熱傷は、故意に負わされたものである可能性があった。くだんの漁船火災も不可解な状況下で起きていたことがわかる。すべては乗っ取りのための罠だったのだ。武装したテロリストによって乗組員の一人が射殺され、コクピットも占拠されてしまう。
乗っ取られた機内の極限的な緊張感と、テロリストの目的を探る心理戦とがページを繰らせる原動力になる。オスプレイという世間の関心を集める航空機を題材にしたからこそ成立する物語であり、その意味では十分に時宜を得た応募作であろうと言えるだろう。こうしたスリラーではディテールをいかに精緻に書き込めるかが生命線となる。オスプレイを巡る争奪戦を楽しんで読ませるためには、同機の機能や操縦法を噛み砕いて説明することが不可欠なのである。その点、作者は十分に取材を行ったのだろう。まるで機内にいるかのような臨場感で作品を読むことができる。反面、こうした軍事スリラーにありがちな点も見受けられる。技術的な説明を重くしようとするあまり、登場人物の描き分けがおろそかにされているように感じるからだ。しかしこの点は好みの問題だろう。作者はすでに長い筆歴のある書き手だが、まったくの新人の作品と見做して読んだ。筆力の高さゆえの一次通過であり、過去の筆歴で選んだわけではないことは念のため記しておく。
(杉江松恋)