第18回『このミス』大賞1次通過作品 自由の女神

革新的な電力会社の精鋭たちと経産省の役人が
対立を経てともに大規模停電に挑むパニックノヴェル

『自由の女神』遠野有人

 二〇一六年のエネルギー電力自由化を受け、興梠優奈は二人の専門家──土屋有樹と七瀬カイトをスカウトして”株式会社ソレイユ電力”を立ち上げた。経済産業省の電気・ガス取引管理室の森久保彰は、送電ロス率の低い実績報告書に疑念を抱き、ソレイユ電力の監査を開始する。興梠は五年前に森久保をストーカー扱いした因縁の相手でもあった。
 資料に不正は見付からず、利用者の評判が良いことに納得できない森久保は、ソレイユ電力と契約して実態を暴こうとする。その矢先、興梠のストーカーと勘違いした中学生に家を停電させられた森久保は、名誉毀損として二千万円の示談金を要求した。興梠は金を作るために海外企業とライセンス契約を結ぼうとするが、関東全域で大規模な停電が発生し、収拾のために森久保と手を組むことになる。
 新規参入した電力会社の優秀な面々、不正を暴こうとする役人──というライバル関係のキャラクターを配し、各々の背景とトラブルを示したところで、物語はブラックアウトを描くサスペンスに突入する。スムーズな話運び、リーダビリティの高い文章、専門知識で興味を引く技などを兼ね備えた内容は、いかにもウェルメイドなエンタテインメントといえるだろう。森久保と中学生の絡みがすっきりしない感はあるが、全体的な完成度は注目に値する。この著者は即戦力だ。

(福井健太)

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