第18回『このミス』大賞1次通過作品 はぐれた金魚は帰れない
人を喰い殺す思念物体”金魚”を操る美女が
警察・司法・教育機関に復讐するハードスリラー
『はぐれた金魚は帰れない』藍沢すな
二十歳の女・雪根亜莉亜が大阪の小学校を襲撃し、常人には見えない思念物体──空を泳ぐ十二匹の巨大な”金魚”を操り、十四人の児童を含む三十五人を喰い殺させた。亜莉亜は一週間前にも”金魚”でOLを殺害し、その動画を配信している。”金魚”を視認できる大阪府警の巡査部長・夏木誠一は亜莉亜を捕らえるが、思念物体による殺人の立証は困難だった。
目的は「警察と司法と教育機関への復讐」だという亜莉亜の過去を探った警察は、小学生時代の彼女が”金魚”で同級生一家を殺し、父親の杭瀬亜紀彦が死刑になったことを突き止める。亜莉亜は”金魚”が見える弁護士・国仲達樹と手を組み、思念物体の存在と父の冤罪を認めさせるべく、前代未聞の裁判に臨んでいく。
冤罪で処刑された父の復讐を果たすため、法が対処できない”超自然による殺人”を見せつけ、再犯を宣言して相手を追いつめる──亜莉亜の言動は殺人鬼そのものだが、かくも強烈なヒロインはそうはいまい。インパクトの強いキャラクターが策動し、事件のスケールや関係者たちの熱量が加わることで、ここには濃厚なサスペンスが生じている。ラストシーンのありようも独創的だ。可視者の扱いに甘さはあるが、この牽引力の前では些事だろう。リアルとアンリアルの狭間を縫い、特殊な法廷劇を成立させた佳作。一次選考は悠々とクリアである。
(福井健太)