第18回『このミス』大賞1次通過作品 ユリコは一人だけになった
高校に残る都市伝説をめぐって
人々の悪意が重なり合う学園ミステリー
『ユリコは一人だけになった』貴志祐方
二十年前まで女子校だった百合ヶ原高校では、オカルトめいた伝説が語り継がれている。学内に一人だけの「ユリコ様」には他人を不幸にする力があり、複数のユリコ(という名の生徒)がいる場合、退学や転校などで一人に淘汰されるという。その話を聞いた一年生の八坂百合子は、現在の「ユリコ様」である三年生・筒見友里子と対立していた女子──浅香樹里の自殺未遂に驚きを隠せなかった。
文化祭の演劇でユリコ伝説を扱うことになり、親友・嶋倉美月の脚本執筆を手伝うために、百合子はユリコ様を崇める非公認サークル”白百合の会”を訪れた。その直後、校内に五人いるユリコの一人・松沢佑璃子が密室状態の屋上から転落死する。百合子は初代ユリコ様の日記から真相を探ろうとするが、連続殺人はまだ始まったばかりだった。
高校に伝わるフォークロアをモチーフとして、その起源と殺人犯の正体を暴く本格ミステリーである。ユリコ伝説は(一応の必然性はあるが)すこぶる人工的なもので、語り口の淡泊さも相まって、雰囲気の演出には不満が残る。不可能犯罪のトリックとロジックも弱い。しかし視点を変えていえば、物理トリック、テキストの解析、軽いオチなどを取り揃え、複数の思惑を一つの怪異譚に集約させ、立体的な真相を明かしていくプロットは評価できる。いくつかの弱点を認めたうえで、ひとまず二次選考に残しておきたい。
(福井健太)