第18回『このミス』大賞1次通過作品 フィオレンティーノ
天正遣欧使節の中浦ジュリアンが
天才大学生ガリレオ・ガリレイとともに
巨大な宝石の謎を解き明かす
『フィオレンティーノ』平島摂子
メインのキャラクターは、歴史の授業でおなじみの「天正少年遣欧使節」である。伊藤マンショ、千々和ミゲル、中浦ジュリアン、原マルティノの四人だ(正確には「伊東」マンショと「千々石」ミゲルだが、とりあえずここでは意図的に改変したものと解釈し、そのままにしておく)。四人の中でも、中浦ジュリアンが基本的な視点人物(主人公)となる。
ローマへ向かう途中、使節団一行はトスカーナ大公フランチェスコ・メディチの招きを受け、ピサの街に逗留することになる。宮殿での歓待の際、美貌の大公妃ビアンカは巨大な宝石を身につけていた。それこそ、国宝であるダイヤモンド「フィオレンティーノ」であった。
だがジュリアンは中庭で、仮面の人物が誰かにきらめく宝石を秘かに渡しているところを目撃してしまう。その後、ビアンカ大公妃のつけていたフィオレンティーノは偽物ではないかという疑惑が浮上する。
鑑定を行なう宝石職人ポンペオ・モーロには大学生の弟子がいた。ジュリアンと出会ったその人物は、ガリレオ・ガリレイと名乗る。そして、殺人事件が発生する……。
歴史好きには非常に楽しんで読める、歴史ミステリーだ。舞台が十六世紀イタリア、メインキャラが少年遣欧使節なので、世界史ファンでも日本史ファンでも、思わず手が伸びてしまうだろう。もちろん、様々な史実も作中で説明されるので、詳しいことを覚えていなくても大丈夫。
四人の少年たち以外の、トスカーナ大公、大公妃ビアンカ、大公の妹ヴィルジーニア、大公の弟ピエロといったキャラクターたちも魅力的だ。
一方、全体的にミステリー要素がやや弱いかと感じられた。事件が起こるまでにしばらくかかるところは、少し書き直して事件がすぐに発生するようにした方がいいかもしれない(時系列の入れ換えで可)。
調べたことを(もったいなくて)全部書き込んでしまうというのは小説を書き始めの人が陥りがちなパターンだが、本作はそこをきちんとクリアしていた。歴史的な事実をバランスよく配置し、物語と有機的に組み合わせている。これができているだけで、高感度アップであった。
(北原尚彦)