第18回『このミス』大賞1次通過作品 わたしの殺した力士
相撲雑誌記者だけが気がついてしまった
ひとりの力士を巡る怪しい謎とは
そして真相を知るかもしれない女性の悲劇……
『わたしの殺した力士』走水剛
出版社勤務の沢岸夕介は、相撲雑誌の編集員。彼はスポーツ新聞を読んでいて、おかしなことに気がついた。稲葉部屋に所属する「闘志」という小結を取り上げた記事で、手打ちそばを十五枚食べたと書かれていたのだ。だが十年前、闘志が新弟子だった時に夕介が取材した際には、そばアレルギーであると語っていたはずなのだ。
稲葉部屋で稽古を見学した後、夕介はなにげなく闘志にそばのことを訊ねる。だが闘志は、誰かと間違えているのだろうと否定した。
夕介には、思い出したことがあった。かつて同じ一門だが別な部屋に、顔も身体つきも闘志によく似た「嵐徹」という男がいたことを。夕介の疑惑は、ふくれあがっていく。
夕介は当時のことを知る人物に話を聞いて回る。そんな折、かつて彼の会社に勤めていた国弘サリという女性と再会し、自分の疑惑を話す。やがて、事件は起こった……。
タイトルからユーモア・ミステリーかと想像されたが、力士を巡る謎を主題とした、シリアスな作品だった。相撲界のことが丁寧に描かれ、薀蓄の部分でも楽しめるのはなかなか好感触。文章もこなれており、読みやすい。
ただ、いかんせんメインの謎が弱い。ほぼ「AかBか」である。その謎だけでもたせるのは、ちょっと引っぱりすぎではないか。もう少し、追加の謎が欲しいところだ。
人名をときどき間違っているのは、読んでいて読者をさめさせてしまう。プリントアウトしてじっくり読み返せば、そういうケアレスミスは防げるはずだ。
とはいえ小説としては(文章力は)しっかりとしている。一次選考を通過する実力は十分にあり。
(北原尚彦)