第18回『このミス』大賞1次通過作品 EQ 彷徨う核
すねに傷持つジャーナリストが
国際情勢を左右する半世紀前の亡霊を巡り
因縁のイラクへと潜入する
『EQ 彷徨う核』澤隆実
主人公は、ジャーナリストの岸和田康介。大手新聞社に勤務していたが、アフリカの独裁国へ取材に行った際に大統領と揉め事を起こして、退職しフリーとなった。
彼は自分の住む団地で、ひとりの男が拉致されそうになるのに遭遇し、それを阻止した。男は石原良太という名で、最近まで鹿児島で漁師をしていた。その影で、彼は高額報酬と引き換えに極秘の仕事を請け負っていた。それは沖縄県尖閣諸島沖に沈んでいる「荷物」の保守点検だった。だが問題が発生したため、身の危険を感じて逃げてきたのだ。
岸和田は、その荷物が半世紀前に米空母から落下した危険極まりないシロモノであることを知り、愕然とする。それがあれば、使用可能な核兵器を手にすることができるのだ。その事実を知る特殊な機関は、荷物の発見と回収を岸和田に依頼する。かくして、岸和田はイラクへ潜入することになった。だがイラクは、岸和田の暗い過去につながる場所でもあった……。
重厚なポリティカルフィクションであり、テーマは壮大で、アクションも多く読んでいて飽きることはない。歴史的事実、地理的事実、技術など、よく調べて書かれている。
但し、淡々と出来事を語っている基本的な文章は悪くないのだが、比喩的な文章になると大仰過ぎたりちぐはぐだったりと、うまくはまらずに流れから浮いてしまっている。また、読点(「、」)の使い方がこなれていない。余分な読点が多かったり、読点を置く位置がおかしかったり。読みやすくしようと多めに読点を打っているのかもしれないが、かえって読みにくくなっている。読者を信頼して、読点をもっと外してもいいだろう。以上の二点を全体的に直すだけで、ぐんと質が上がるはずだ。
また構成的には、ところどころ長すぎる感じがあるので、少し刈り込んで引き締めたほうがいいかもしれない。
以上のように改善提案は申し上げたが、作品的に一次選考のハードルは越えられると判断した次第である。
(北原尚彦)