第18回『このミス』大賞1次通過作品 鰓を食らい、毒を矯む
歴史の謎のどんでん返しが見事
引きこもり女性作家が初めて調査に外出
果たして学者に勝てるのか?
『鰓を食らい、毒を矯む』初宿遊魚
ごく真っ当な歴史の謎解明小説。設定に工夫が凝らされている。
徳川大樹と石田水瀬という元同級生男女のコンビが主人公で、冒頭はふたりがまだ小学校の5年生でしかない。ところが担任の教師が歴史好きで『徳川』と『石田』という苗字を見つけたものだから、司馬遼太郎も書いているように石田三成は卑怯な男で有名で、と熱弁をふるい、水瀬は翌日から登校拒否のひきこもりとなる。
話が始まるのは9年後で、ふたりは21歳になっていて、大学で文学部日本文化史学科3年の大樹がひきこもりの水瀬に声をかけに行く。なんと水瀬は13歳のときに石田三成の新しい解釈を小説にして、ミステリー新人賞の優秀賞を受賞した人気作家になっていたのだ。
この日大樹が材料提供したのが、鹿児島の隠れキリシタンの謎。大樹の後輩女子大生の祖父が、テレビで先祖から伝わるキリスト教の祈りを唱えたら、大樹の大学の準教授の番場が登場してニセモノと決めつける。その後輩を紹介された水瀬は、現地で調べるしかないと言い出して大樹を驚かせる。
3人で鹿児島へ飛ぶと、河童伝説やユダヤ教など次々に新しい発見にぶつかった。これで番場の間違いを示してやれると研究室に電話すると、あっけなく論破される。追加調査するために九州各地を移動して新事実をつかみ、小学校中退作家としてテレビで番場と対決する。
安定した人間関係や書きっぷりの素直さがお手柄だし、本当かどうかはわからなくても謎の解明は十分に楽しめる。
(土屋文平)