第18回『このミス』大賞1次通過作品 時空裁判(本能寺)
信長殺害の黒幕は誰か?
光秀はなぜ悪役に?
盛り沢山の歴史法廷ミステリー
『時空裁判(本能寺)』東雲明
まずは本能寺のシーンから始まる。これは催眠からトランス状態になって過去を夢で見る能力を持つ主人公神崎が所属する時空研究所で研究員たちが、信長の最期をたしかめようとしているのだというから驚き。そのうえ明智の先発隊が本能寺に入ったときには戦闘が終わっていて、その謎を解くのがメインのストーリーとなる。つまりは未来のSFで歴史を研究するきわめて真面目な小説で、そんな設定は嘘くさいと思う間もなく、本能寺の通説との違いをどう解決するのかで話はどんどん進む。
そのうえに歴史事件の真偽を争う『時空裁判』が謎解きの舞台となる。法廷物でもあるわけですね。主人公の側のリーディング研究所と争うのは学会側で勝率8割の手ごわい相手である。毎日少しずつ公判があり、敵役にふさわしい教授たちがこちらをバカにしてかかる。両方の陣営にそれぞれ対抗する女性も配置されている。
もちろんみごとな勝利で終わるのはわかっていて、いろいろある本能寺の真相解明の説とはまったく違う作者独自の新説かどうかは判断がつきません。ただ秀吉が岡山から引き返す日数が少なすぎるというのは、諸説に共通する疑問のようでそれなりの説得力があります。
つまりはSFで歴史物で法廷ミステリーという欲張った思いつきを、とにかくやりきったところを評価したいです。全体にまじめさを感じさせて、ゆるみのないところも好感が持てました。
(土屋文平)