第17回『このミス』大賞1次通過作品 新たなる罪のプロローグ
クラスメイトを死から救え――
文よしキャラよしプロットよし、要するによい小説だ!
『新たなる罪のプロローグ』日部星花
よい小説を読ませてもらった。とてもよい小説を。
特に導入部から終盤にかけては、一次選考のためという意識を忘れるほど、夢中になって楽しませてもらった。
順不同でその魅力を紹介すると、文章がよい。歯切れがいいしリズムがいい。著者が何をいいたいのかが、読み手にくっきりと伝わってくる。応募作のなかには地の文もセリフも説明文になってしまっている小説も少なくなく、あるいは自分の文章に著者御自身だけが酔っていて何を伝えたいのかが不鮮明なパターンも散見されるなかで、この作品、圧倒的に素晴らしかった。書き手が、己の文章と適切な距離感で接しているのだ。
キャラクターもいい。登場人物のほとんどを占める高校生が、それぞれにリアルで、誇張にならずに個性的で、しかも生きている。とってつけたような特徴付けではなく、その人らしさが、中心人物のいずれにも備わっているのだ。著者は、行動を描き、セリフを描き、反応を描き、それによってその存在を読者の心の中で育てていく。なんて達者なんだ。
プロットも素晴らしい。むしろこれを最初に褒めたくなるほどに素晴らしい。複数の章から構成された小説なのだが、章が変わる毎に衝撃がある。二次審査の際に一ミリたりとも先入観をもたれたくないので具体的にここには書かないが、よくできているのだ(梗概を読んでみても、著者がきちんと計算して目配りしていることがよくわかる)。
あえて――そう、あえてだ――難点を探すとすれば、序盤から物語を誘導してきた【まほうつかい】に並立するような概念が、終盤になって初めて登場し、それで小説が最後に一転がりすることか。この新概念が持ち出されることで、なんというか、小さな段差に躓いたような感覚を覚えてしまうのだ。ここはもう少しうまく処理できたのではないかと思う。それも、この作品の構造の本質には全く影響を及ぼさないかたちで。
こんな風に書くと、ストーリーが気になる方もいるだろう。高校生が、クラスメートを死から救うために奮闘する物語だ。それ以上語ることは避けたい。この作品が受賞作なり隠し玉なりとして出版されることになるかどうかはわからないが、仮にそうなった際には、読者の方々にこの作品の魅力を、最初から最後まで、全部新鮮に味わってもらいたいので。
(村上貴史)