第15回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹

『迷宮のファイト・ゲーム』城戸雄彦
『誰もカサンドラを信じない』野島夕照
『いつだって、言葉にすれば遠い空』逢川和也
『ダーク・ブライト』初瀬千波

 

 城戸雄彦『迷宮のファイト・ゲーム』は、ある塾と学校の暗部に巻き込まれた少年と少女の冒険を描いた作品。
 躍動感のあるストーリーですが、塾や学園を経営する一族の側の描写が「ステレオタイプな悪の黒幕」の域を出ないところが残念に思いました。物語の中心はアクションにあり、そうした設定は背景に過ぎない……とはいえ、登場人物たちの意思決定もまた、こうした背景とは無関係ではありません。そのあたりの整合性も意識してもらえれば、と思います。

 野島夕照『誰もカサンドラを信じない』は、たった1行で状況をひっくり返す趣向の叙述トリックを仕掛けた作品。
 時系列の錯誤を狙ったせいか、登場人物が妙に時事ニュースについて喋りたがるところが気になりました。むしろ時系列の叙述に何か仕掛けていることが目立ってしまいます。
 ワールドカップ観戦のためにドイツに向かい、オランダの空港でヒロインと出会う序盤の描写は上手かったのですが。
 仕掛け自体はいたってシンプルなので、時事ニュースに頼らない見せ方を考えてもらえれば、びっくりする作品に仕上がったかもしれません。

 逢川和也『いつだって、言葉にすれば遠い空』は、草野球チームの主要メンバーそれぞれの日常と、隠された人間関係を描いた作品。
 章ごとに視点となる人物を交代して、最後の章でそれらが一つにつながって……といった展開を期待していましたが、章と章の間のつながりが弱いところがもったいないと感じた作品でした。せっかく、直接登場しない助っ人選手という要素がありながら、登場人物の中で彼とかかわりがあるのは一人だけ、という展開も同様。独立した短編が並んでいるだけの作品になっているので、章と章との結びつきをもっと密にしてもいいのではないでしょうか。

 初瀬千波『ダーク・ブライト』は、ベンチャー企業立ち上げ奮戦記と言えばいいのでしょうか。営業活動のディテールは、ビジネス書を読んでいるような気分になったとはいえ、ずいぶん楽しく読むことができました。
 ただ、この作品も、「小説としては面白いけれど、ミステリーなのか?」という疑問が生じるタイプ。「ベンチャー企業立ち上げ奮戦記」として完成された作品に、無理に殺人事件のエピソードをねじ込んだように見えてなりません。あれを別のトラブルに置き換えても、この小説の面白さはほとんど変わらないのでは。

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