第15回『このミス』大賞1次通過作品 十四体目の幽霊
連続動物殺害事件とストーカー事件の繋がりとは?
五人の視点から語られる青春小説
『十四体目の幽霊』富士登湖雪
主要登場人物は6人。高校三年生の長谷部ほのか、彼女が想いを寄せている石内優作、彼の幼馴染みの津賀航太、石内と同じクラブの倉間茉子、石内の妹で中学生の梨穂、そして梨穂の学校の教師・佐々木。このうち佐々木を除いた五人の視点から、ストーカー事件と連続動物殺害の顛末を語り明かしていく青春小説です。
物語は、交際相手を次々と変えるためにクラスメイトから陰口を叩かれている、リストカット癖のある美少女ほのかが、優作に心惹かれていく導入部で幕を開けます。その優作が、ある日学校に出てこなくなる。どうやら、茉子に対してストーカー行為を働いていた佐々木に怪我を負わせたために謹慎処分となったらしい。中学時代に野球部で酷いいじめにあっても決して抵抗しなかった優作が暴力行為に出たということが信じられない航太。そんな航太に、優作の過去を教えて欲しいと訴える茉子。独自に調べ始めるほのか。そして、家族から兄の身に起きたことに関して何も教えて貰えず苛立つ梨穂。
それと並行して、スタンガンを使って動物が殺され、毛を削がれる事件が続きます。そして二つが結びついたときに、事の真相が明らかになります。
作者は、この青春小説を書くに当たって一人称多視点を採用しています。五人の主要登場人物が見たこと感じたことを逐一明かし、悩み苦しむ様を描写するため、読者に対してテーマをストレートに力強く訴え、誤解を生じさせません。その反面、余韻や奥行きが減じてしまい物語が薄く単純なものとなっているのは残念です。
要であるはずの佐々木がストーカーを行うに至った動機が今ひとつ説得力が無い点、謎はあれどもミステリの結構が出来ていない点もマイナス。それでもキャラクター造詣と文章力は、一次を通す水準にはあると判断しました。
(川出正樹)














