第15回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史
『∞の殺人』貴志祐方
『恐るべきもの』中村泉
『品川署刑事課 美女馬鹿トリオの事件簿』若咲マリ
今年の応募作についての全体的な手応えだが、夢中になって読める作品が残念ながら少なかった。練り込んでいないし磨いてもいない。書きたいものを書くというパッションを貫き通すでもなければ、読者を持てなそうという気持ちが伝わって来るわけでもない。思いつきました/書きました/応募しました/デビューできるといいな、というようなぬるさが伝わってくる原稿が多かった。第三者の目で読み返してみれば、自分の作品の凸凹や歪みに気付くだろう。それすらやっていない(ように読めてしまう)原稿ではなく、作家として生き抜いていこうという心意気と努力に満ちた原稿が読みたい――とひとしきり精神論を語ったうえで、次回に期待したい作品を紹介していこう。
貴志祐方『∞の殺人』は“孤島に集められた五人の男女と世話役の男が全員殺される”という出来事が毎日繰り返される、という謎を描いた作品。推理合戟や、“昨日殺された自分たち”の反省を活かして“今日を生き延びよう”とする展開など、なかなかに楽しませてくれる。着地点次第では二次選考に進める魅力を備えていたが、事件の真相が謎に比べてパワー不足であった(伏線をもっと巧みに操れば、この真相であってもインパクトと納得感を強めることもできただろう)。
中村泉『恐るべきもの』は天災小説。爆弾低気圧をはじめとする天災場面の迫力は十分読ませてくれて満足できたのだが、小説全体として見ると、バランスが悪い。新機構の発電システムであるとか、卑劣な行戦をとる男であるとか、ある悪意を抱く人物であるとか、そうした要素について、どれだけの重みを置き、どれだけの紙幅を費やし、どんな順序で描いていくかを整理して欲しかった。思い切ってカットすべき要素は切り落とし、自分が中心と思うポイントに焦点を絞れば、この描写力のこと、第一級の強靭な小説に仕上がったのではなかろうか。
若咲マリ『品川署刑事課 美女馬鹿トリオの事件簿』は、バランスのいい小説だ。顔とスタイルが抜群で、知識常識良識を欠く三人の女性警察官が、布団が三千枚盗まれたというバカバカしい事件に挑む。捜査方法もバカバカしければ、彼女らが思いつく布団盗難トリックも絵としてかなりバカバカしい。その意味でブレがないのだ。語り口も軽妙もしくは軽薄で展開のテンポもよく、安っぽささえも魅力に見えてくる。そんなにも素敵な作品を二次に推せなかったのは、ラストの仕上げ部分で、若干の知識良識が顔を出してしまい、それまでの勢いを削ぎ、作品の世界観を曇らせてしまっていたためだ。布団大量盗難事件の謎解きであるが故に、そうした面が顔を出すのは無理もないことかもしれないが、家に帰るまでが遠足、この世界観を最後まで貫いて欲しかった(あるいはその世界観を伏線を張った上でひっくり返して欲しかった)。残念である。是非とも次回再挑戦して戴きたい。
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