第15回『このミス』大賞1次通過作品 リサーチャー石井の事件簿~仮面ちゃん殺人事件~

嘘に嘘を重ねて注目を浴びろ
謎のアイドルの正体を暴く業界小説

『リサーチャー石井の事件簿~仮面ちゃん殺人事件~』小野高義

 雑木林で”顔を焼かれた死体”を見て失神し、重要参考人を取り逃がしたエリート新米刑事・石井美穂は、上司の勧めでテレビ番組のリサーチャーに転身する。警視庁キャリアと称する放送作家・吉高の指示を受けた石井は、謎の地下アイドル”仮面ちゃん”を取材するが、それはアイドルプロデューサーの福西光雄と吉高の仕掛けだった。福西のもとに「仮面ちゃんを最初に手がけたのは私」「仮面ちゃんの素顔を公表して、おしまいにしてください」という要求が届き、吉高は特別番組と新曲「顔のない私」のリリースを企画する。その曲と石井の目撃した事件を重ねた動画がインターネットに流出し、世間の注目が集まる中、ついに特別番組の放送が始まった。
 身内の伏せた事実をテレビ番組で公開するという解決法は、ミステリーとしては邪道だが、本作は推理を軸にした話ではない。衆目を浴びるための嘘は当然、他人を騙すことに抵抗はない、本人が納得すればどんな扱いも構わない──という価値観が(疑問の余地もなく)許容される世界は、それ自体が独特の色を持っている。最後に浮かび上がる悲劇の存在が、冷淡な筆致と相まって虚無感を残すのも興味深い。読み手を選ぶ面は否めないが、ここには確かに”現実”がある。軽さを基調とするからこそ、むしろ闇を感じさせる異色作だ。

(福井健太)

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