第15回『このミス』大賞1次通過作品 薗田幸朗

イランの核燃料開発施設をめぐる
査察官と女スパイの冒険譚

『沙漠の薔薇』薗田幸朗

 イスラエル国防軍の工作員ショシャナ・コーエンは、イランの核燃料開発施設「太陽の賜物」を監視し、高濃縮ウランの輸送を目撃する。ジャハーンギル所長は核兵器用のウランを密造していた。ショシャナは家族の仇である彼に復讐するため、ジャーナリストのエマと名乗り、IAEA核査察団員・千堂亮一に接触する。いっぽう施設の研究者ヘダーヤティは千堂に情報を提供し、日本への亡命を希望した。秘密警察に正体を知られたショシャナは身を隠し、ヘダーヤティを捕らえて尋問しようとするが……。
 イランの核開発疑惑をモチーフとして、日本人査察官とイスラエルの女スパイの活躍を描くサスペンスである。国際問題を扱いながらも、虚々実々の謀略戦ではなく、個人のドラマに徹したプロットはすこぶる明快。斬新さやサプライズには欠けるが、シンプルな目的を持つキャラクター陣、歯切れの良い場面転換、終盤のアクションなどはハリウッド映画を彷彿させる。”民間人”を信用できない状況、謎めいた「電話の男」の存在などを通じて、淡い緊張感を演出しているのも巧いところだ。
 あえて贅沢を言えば、宗教や価値観の差を強調し、ディテールの積み重ねで中東の空気感を醸すような工夫は欲しい。各方面の組織的な動きを仄めかす手もあった。しかし全体的な完成度は高く、一次審査は軽くクリアできる内容だろう。執筆時期は不明だが、最近のニュースを踏まえた幕切れも気の利いた皮肉として評価したい。

(福井健太)

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