第15回『このミス』大賞1次通過作品 田内杏典

連続猟奇殺人事件の犯人として自首してきた警察官の真意は何か?
六十年代初頭のデトロイトを舞台に、不変的なテーマを描いた警察小説

『変死区域』田内杏典

 時は1962年10月、舞台は、自動車産業の衰退により急速に治安が悪化している大都会デトロイト。裕福な白人家庭の少年少女ばかりをターゲットとした連続猟奇殺人事件の犯人を追う市警本部殺人課の警部補ベインズは、焦り、苛立っていた。最初の被害者が殺されてから半年が経つにもかかわらず、手掛かりは一切なし。その一方で、自白してくる異常者は後を絶たない。その上、マスコミ受けを狙った市長は、事件の早期解決を宣言する。
 まさにどん詰まり状況の中、ようやく事件解決の糸口となりそうな物証を監察医から提示され心躍らせるベインズ。だが、そんなかすかな喜びは、一瞬にして粉砕される。かつての上司であるヴィンセント警部が、自分こそが連続殺人事件の犯人であると自首してきたのだ。彼は本当に真犯人なのか? だとしたら動機は何なのか? 身内の自白という致命的な事態に対峙させられたデトロイト市警は、いかなる反応を示すのか?
 なによりもまず、その設定に唸らされました。半世紀以上前の異国を舞台にした警察小説を、敢えて新人賞に送ってくる。しかも免罪符代わりに、とってつけたような日本人を出したりしていない。作者の書きたいものを書くという確固たる意思と覚悟がうかがえて、好感度大です。むろんエンターテインメント小説として水準に達していなければ話になりませんが、この点は十分にクリアしています。主人公の一人称による、硬質で乾いた単文を連ねる文体は、キャラクター造形の巧さと相まって、まさに良質な翻訳ミステリを読んでいるような愉悦を味わわせてくれます。五十年代の繁栄が終わり、急速に治安が悪化しているデトロイトの雰囲気もきちんと感じさせてくれます。
 意外な動機のベースとなるテーマが、アメリカはもとより世界的にも根深く、現在もホットなものであることからも、今の時代に、この作品を書く意義は十分にあると感じました。

(川出正樹)

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