第15回『このミス』大賞1次選考通過作品 愚者のスプーンは曲がる
超能力は存在するのかしないのか?
常に不幸に見舞われる「ツイてない男」が
おかしな組織、奇怪な事件に巻き込まれる
『愚者のスプーンは曲がる』桐山徹也
この物語の世界では超能力が存在する(らしい)。だが超能力者には、能力と引き換えに代償が与えられる(らしい)。そして主人公「ぼく」も、超能力を持っている(らしい)……。
なぜどれも「らしい」なのかというと、「ぼく」の持つ能力とは「超能力と代償を無効化する」ものだったのだ。つまり、彼の前では能力者による超常現象は発生しないのだ。
当初「ぼく」はキイチとマキという男女二人組に拉致され、山中で始末されそうになる。キイチもマキも超能力を持っており、能力者組織のメンバーだった。組織にとって、無効化能力を持つ「ぼく」は危険すぎる存在だったのだ。だが「ぼく」は、彼らの仲間になるという条件で、命を救われたのである。
かくして『超現象調査機構』のメンバーとなった「ぼく」が事務所で留守番をしていると、男――やはりメンバーである内海――が血だらけで入ってきて「アヤカには近づくな」という謎の言葉と、鍵とを残して死んでしまったのだ。
「ぼく」、キイチ、マキは、内海が追っていた過去の事件を調べ始める……。
超能力をキャンセルする能力、というのはマンガやアニメなどでもよくあるが、本作ではそれをうまく利用して、話を作り上げている。主人公の一人称、つまり常に「ぼく」視点で物語が展開するため、超常現象が発生するシーンそのものは描かれないのだ。だから、主人公も読者も、常に問い続ける。本当にこの「能力」と「代償」というものは存在するのか、と。
主人公はじめ、仲間たちもそれぞれ充分にキャラが立っている。「ぼく」の能力の代償が「ツイてない」ということだったのだが、本人は単にアンラッキーなだけだと思っていたのである。
テンポが良く、非常に読みやすい。読んでいて楽しい。ちょっと荒削りなところや気になる瑕疵もあったが、ぐいぐいと引っ張る力は強い。
一次選考は軽々クリアの実力だ。もし今回受賞を逃したとしても、いつかどこかでデビューできる力の持ち主である。
(北原尚彦)














