第15回『このミス』大賞1次選考通過作品 信長の首

信長を殺した真犯人は誰か?
怪しの忍者〈笑仮面〉は何者か?
謎とアクションたっぷりの時代ミステリー

『信長の首』破屋酔雲

『このミステリーがすごい!』大賞には、ある一定の割合で時代小説が応募される。この大賞では「ミステリー」を広くエンターティメント小説としてとらえているのでそれはもちろん構わないが、やはりある程度のミステリー要素は欲しい。純然たる時代小説ならば、時代小説の賞に応募すべきだろう。
 その点、本作は本能寺の変から以降を背景する時代小説だが、きちんと謎が設定されている。
 甲賀忍者・飛猿ノ左介は、一度会ったきりの父親と会うため、本能寺へ向かった。その父とは、誰あろう織田信長だったのである。だがそこへ、二人の忍者が飛び込んできて、信長は殺された。左介は刺客の一人を討ち果たしたが、もう一人の顔を見て愕然とする。それは互いに恋し合っている、伊賀くノ一・月ヶ瀬ノ才三ではないか。左介が討ったのは、彼女の父・七軒刃だった。この時、二人は同時に「父の仇」となってしまったのだ。
 信長の首は、謎の忍者〈笑仮面〉が持ち去ってしまう。信長殺害を七軒刃に命じたのは明智光秀ではなかったが、軍を率いて本能寺へ来るところだったために、彼が謀反を起こしたことになったのである。
 左介と才三は父の仇同士でありながらも、真相を知るまでは、と手を結ぶ。信長暗殺の首謀者は誰なのか。そして〈笑仮面〉の正体とは……。
 様々な個性を持つ忍者たちが登場し、豊臣秀吉、徳川家康、黒田官兵衛、柴田勝家、前田利家など歴史上の人物と絡む辺りは、山田風太郎の忍法帖の流れを汲んでいる。豊臣秀吉の行動原理云々というところは『妖説太閤記』のようだし、謎の忍者が〈笑仮面〉という名である辺りも、風太郎由来だろうか。また、横山光輝の『仮面の忍者赤影』オマージュかも、という名前も出てくる。
 テンポが速く、次々にシーンが転換する。連続ドラマもしくは連続アニメにするとよいかも、という展開であった。
 ミステリー要素、及びその解決がやや弱いという印象はあるが、さくさくと楽しく読める娯楽作である。

(北原尚彦)

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