第14回『このミス』大賞 次回作に期待 宇田川拓也氏コメント

『天蓋の夢見るオルゴール』紺野天龍

宇田川拓也コメント

 第11回のとき、2次に推せるほどの作品がなかなか現れず、全滅を覚悟して冷や汗が流れたが、今回また「悪夢ふたたび」という状況が巡ってきてしまったのは誠に残念。
 書き始める前に、せめて歴代大賞受賞作には目を通しておくこと、そして当ホームページ掲載の選考委員各氏による諸注意や助言をしっかりとお読みいただくことを切にお願いする次第である。こちらの要求するレベルがどの程度であるのか、また落選した作品にはどのような瑕疵があったのかをご確認いただき、執筆に取り掛かっていただきたい。
 といった状況なので、今回は2次に推す作品も“次回作に期待”する作品もひとつずつしかなく、このままではスペースがかなり余ってしまうので、全体的に気になった点をいくつか挙げておきたい。

 応募作を拝読していると、とくに謎らしい謎も驚きもなく「この物語が“ミステリー”である必要性はあるのだろうか?」と首を傾げてしまうものにたびたび出くわした。人が死ぬ=“ミステリー”というわけではない。昨年も同じようなことを書いたが、ご自身の作品を本賞に投じることが本当に適切なのかを、よくお考えいただきたい。

 とくに四十代後半以上の応募者に多いのだが、本賞は2時間サスペンスや刑事ドラマの原作を求めている訳ではないので、いかに型にはめるか――といった方向を目指さないように(こうした過ちを犯さないためにも、まずは歴代大賞受賞作に目を通すことをオススメします!)。テレビ、映画、コミックに携わる人たちが思わず悔しがるくらい猛烈に面白い、そんなミステリー小説を待ってます。

 なぜか今回は、例年になく“名探偵”の登場する作品が目についた。役どころとしてではなく、本当に〈名探偵○○〉として現れるのだが、ほとんどが“ちょっとクセのある変わった人”止まりで、目の覚めるような名推理を披露してくれることはなく、しょんぼり。雰囲気だけの名探偵を安易に登場させると自分の首を絞めることになるので、どうしても活躍させたいなら、くれぐれも扱いは慎重に。

 登場した人物のデータを二~三行の箇条書きで説明するのは(個人的にはあまり感心しないが)、あとから膨らませることもできるので、まあよしとしよう。しかし、クライマックスに至っても二~三行以上の魅力がちっとも生まれてこない作品が多く、閉口した。イヤな奴は最後までイヤな奴、いい人は犯人であっても最後までいい人では、面白味は生まれてこない。ストーリーだけでなく人物造型にも意外性を盛り込むことを、ぜひ意識していただきたい。

 さて、そろそろ本題である“次回作に期待”に移るとしよう。
『天蓋の夢見るオルゴール』紺野天龍は、かつて名探偵と怪盗王が対決した“大探偵時代”と呼ばれる時期があった世界で、女子高生が古いオルゴールをめぐるトラブルから伝説の未解決事件に挑むことになる本格ミステリー。今回読んだ応募作のなかでもっとも「先が気になる」書き方を心得たとても筆力のある方で、作中作の使い方も申し分なし。ふんだんに盛り込まれた謎にわくわくしながら、途中までは二次選考に推す気満々だった。ところがいざ解決編に突入すると、途端に「あれれ?」と思うことが増え始め、つぎつぎと繰り出される推理にキャラクターは仰天しているのだが、こちらは「そんなに驚くことか?」と冷めることしばしば。ある重大な謎に至っては、「まさか、あのネタを使うつもりでは……?」という危惧が的中してしまい、静かにうつむいてしまった。前半で煽りに煽ったわりにラストもふんわりとした「いい話」で終わってしまい、肩透かしの感が。
 筆力と演出力は、いうことなし。あとは精度を磨いての再挑戦を心よりお待ちしております。

 最後は、いつもの言葉で締めるとしよう。
「書店員が頭を下げてでも売りたくなるような渾身の傑作を待っています!」

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