第14回『このミス』大賞 1次選考通過作品 木村一男

「芋虫」+『ジョニーは戦場に行った』!
ルソン島攻防戦と伝単作戦を巡る奇妙な物語

『南の島に物語が降る』木村一男

 はじめに書いてしまえば、題材に寄りかかった応募作ではあると思う。話の中心となるものは「伝単」だ。伝単とは第二次世界大戦において兵士や一般市民に対して撒かれた、戦意を喪失させたり降伏を促したりするためのアジビラのことである。原子爆弾が日本に投下されることが決まり、そのことに罪悪感を抱く者がひそかに伝単作戦を実行に移すのである。そこに記述されたのは、出征した男が四肢と死力を失って帰還することから始まる奇怪な物語だ。作戦の考案者は、江戸川乱歩の発禁処分を受けた短篇「芋虫」と、ドルトン・トランボの反戦小説『ジョニーは戦場に行った』に着想を得て、それを書き上げたのである。小説の主幹をなすのは、フィリピン・ルソン島における攻防戦の物語だ。そこにこの伝単の内容が挿入されていく。前線で起きる不可解な事件と、伝単作戦にまつわる因縁譚とが並行して語られるという仕組みだ。
 こうして書いただけでも作者のセンスの良さはお判りいただけると思う。日米両国の小説のキマイラとして書かれた作中作は雰囲気十分で読者の関心を惹く。歌野晶午『死体を買う男』など、江戸川乱歩文体の模写を試みた作例は多い。「芋虫」は語りの特殊性などからも模写しやすい題材ではあるが、その選択と昇華のさせ方が見事であった。この部分を書けたという業績だけでも、作者には娯楽小説作家になる資格がある。ただし、冒頭に書いたように作中作の独創性に多くを頼っていることは否めない。ストーリーの中心となるルソン島のエピソードは、挿入個所に分断されてしまうためスリルの盛り上がりに欠ける。たしかにプロットは先に進んでいくのだが、その扱い方が事務的に感じられてしまうのである。全体は結構な構造物となったが、物語作家としての技量はまだまだ磨く余地がある。受賞の暁には、ぜひ全体を磨いて一級の完成品に仕上げてもらいたい。

(杉江松恋)

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