第14回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント

『ダブルクロス』竹内冬子
『ei8ht(エイト)』滝沢一哉
『闇を遺しても』志門賢一

古山裕樹コメント

 竹内冬子『ダブルクロス』は、スタンダードな警察小説と見せかけて、実は……な展開をたどる作品。北朝鮮による日本人拉致という題材をストーリーに上手く絡めていますが、気になったのは三点。
 まず、彼らが「敵」であるという物語の構図が、かなり早い段階で明かされてしまうこと。せっかくの警察小説への「偽装」を、もっと有効に活用して欲しかったと思います。
 そして、主役の刑事が追い込まれる苦境が、あまり苦境に見えないこと。確かに彼は「身内」の警察から追われることになりますが、彼を知る人々が無実を信じているがゆえに、あっさり苦境を脱しているように見えます。もっと追い込んでもいいのでは。
 最後は、プロフェッショナルの工作員たちが、「指示待ち」のせいで動けずにいたという展開。前半でその有能さを見せつけられているだけに、なぜこんな「出来の悪い若手社員」みたいなことになってしまうのか……と違和感を拭えません。
 元ヤクザの老人のような味わい深い脇役を配してみせたり、作品自体の構築は優れていると感じました。

 滝沢一哉『ei8ht(エイト)』は、長距離バスに乗った主人公が遭遇するバスジャック事件の物語。よりによって不穏な輩が何人も乗っていたせいで起きる、バカバカしくも意外な展開で読ませる作品でした。
 まず気になったのが、武装した人物に乗っ取られたバスの中で、主役三人があんなに会話を続けられるのか? というところ。作中でもそれに対するエクスキューズは記されていますが、情景を想像すると、どうにも不自然な印象を拭えませんでした。
 そして、主人公の少年とヒロインとの関係。バスの中でのあの展開から、なぜ結末でそんなことに? という疑問が残りました。たとえ吊り橋効果としても、唐突に過ぎるように思われました。
 デフォルメされた登場人物たちそれぞれのエピソードと、それらが絡みあう構成は素晴らしい。ただ、それを支えるディテールにも気を配ってもらえると、物語の「荒唐無稽」な部分がもっと輝くのではないでしょうか。単なる好き嫌いだけで言えば、今回読んだ原稿の中でベストでした。それだけに、土台の部分をもっと固めてもらえれば……と思います。

 志門賢一『闇を遺しても』は、自分が二十年以上前に死んでいたことを知らされるという場面から始まる、謎に満ちた物語。全貌をはっきりさせないまま展開するストーリーは、見せ方もなかなか巧妙。ただ、真相が解明される終盤での失速があまりに惜しい……というのが読後の印象でした。
 人格を操作する実験が成功する、という「大きな嘘」については、むしろ「そういうものである」として受け入れやすいのです。気になったのは、それを支える「小さな嘘」でした。例えば、身分を隠して逃亡生活を続けながら主人公を見守っていた、という父親の存在。この部分をけっこうあっさり流しているのですが、その逃亡生活だけでも一編の小説に成りうるのではないでしょうか。「それって成り立つの?」という疑問に対しては、説得力のある答えを用意しておくべきだと考えます。

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