第14回『このミス』大賞 次回作に期待 膳所善造氏コメント

『ハッピータウンの花火の夜』藍沢砂糖
『棺桶屋お市 雲の帝国』香月亮一郎
『カダフィー大佐からの贈物』新井達夫
『銀河鉄道の森』正宗治都

膳所善造コメント

 今回は、過去例にないくらい低調でした。最初に、一次選考で読んだ応募作に対する総評を書いておきます。
1.カテゴリーを真剣に考えること
 募集要項に、応募対象は「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」と記されているにもかかわらず、ひとかけらの謎もサスペンスもない恋愛小説や時代小説、お仕事小説を送ってくるのは無駄というものです。

2.特殊設定によりかからないこと
 登場人物に特殊能力を与えたり、異世界を舞台に独自ルールを設定したりする作品が、年を追う毎に増えてきています。現実との相違を設けることで、うまく使えば新たな謎や課題を生み出せるというメリットがある反面、世界全体の作り込みが甘いと安易なご都合主義になってしまいます。

3.推敲に時間をかけること
 徹底的に推敲してください。無駄な会話や無駄な描写が必ず見つかるはずです。調べたネタや思いついたエピソードをすべて盛り込んだ締まりのない原稿では一次は突破できません。未完成な原稿を送るくらいなら、もう一年間推敲するくらいの覚悟で臨んで下さい。

 次に、一次通過には至りませんでしたが光るところがあった作品についてコメントします。
 藍沢砂糖『ハッピータウンの花火の夜』は、一言で言って詰め込みすぎです。しかも、動物と話せる少女や街を牛耳る四天王、「人形師」と呼ばれる連続殺人鬼など、どれもみな既視感のあるものばかりで、手垢のついたパッチワークにすぎず、新鮮さが感じられませんでした。章を変える毎に視点が変わる三人称多視点形式ですが、これはプロでも使いこなすのが難しく、現に視点のぶれが散見されます。また、キャラを立たせようとして属性を盛り込みすぎているため、一般の小説としては少年漫画的すぎるし、かといってライトノベルにもなりきれていない中途半端な作品となってしまっています。文章力はある方なので、どちらかに腰を据えて、じっくりと書くことをおすすめします。
 香月亮一郎『棺桶屋お市 雲の帝国』は、そこそこ読ませる国際謀略アクション小説です。主人公が、海外でテロ被害に遭った日本人の遺体を送還する民間会社の社員――実は警視庁の対テロ工作員――という設定に目新しさを感じました。ただし、偶然の使い方が巧くない点と、脳死した関係者から移植を受けていたという設定に必然性が感じられない点が、大きなマイナスです。物語を作る力はある方だと思いますので、捲土重来を期待します。
 新井達夫『カダフィー大佐からの贈物』は、自分が好きな物語を書くという明確な意思が感じられる、地中海沿岸を舞台とした伝統的な国際冒険小説です。ただし、主人公が見聞きしたこと、思ったことを、ゆったりと一つ一つ書き連ねているため、誘拐事件に巻き込まれているにもかかわらず、まるでサスペンスが感じられない点が大きなマイナスです。
 正宗治都『銀河鉄道の森』は、不老不死の裔である主人公がカルト教団の謀略に挑むタイムループものです。沈みゆくタイタニック号での対決という派手なオープニングは、つかみとして十分で、期待して読み進めたのですが、物語の中盤で家族が丸ごと失踪してしまった後のヒロインの言動があまりに不自然であり、急速に冷めてしまいました。ここは、もっと彼女の内面を掘り下げて、物語世界の厚みを増して欲しかった。設定といいキャラクターといい、本賞よりもライトノベルの新人賞の方が、よりマッチしていたのではと思いましたが、物語を紡ぐ力はある方と感じたので、次作を楽しみにしています。

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