第14回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦氏コメント

『遠い人』くわがきあゆ

北原尚彦コメント

 まずは今回、担当した作品全体につきまして。もしかしたら普段、あまり本を読んでいないんじゃないのでは、という方が散見されました。小説を書こうと思ったら、なるべくたくさん本を読んで下さい。面白い本があったら、どう面白かったのか、分析して下さい。面白い本を読まずに、面白い本を書くことはできません。
 一方で、ベストセラーになった本だけを読んでいては、小説を書くことはできません。小説だけでなく、資料となる本も読んで下さい。今すぐ使う本でなくても、読んでおけば必要になった時に「そういえばあの本にあんなことが書いてあった」と思い出し、役に立つのです。

 さて、今回の「次回作に期待」作品は、『遠い人』(くわがきあゆ)です。
 栗野衿香は、隣人の上杉連也と恋愛感情抜きで仲良くなり、連也の部屋で一緒に食事をしたりするようになる。だが連也の兄・衛は、衿香が連也と仲良くなるのを快く思わず、嫌がらせをする。
 そんな中、連也が謎の男たちに襲撃され、彼をかくまった衿香も一緒に拉致されそうになるが、衛によって救われる。
 実は上杉連也はアニメのキャラクター「レティシア」を愛しており、今回の事件もそれに端を発していた……。
 本作で何より気になったのは、物語で重要な役割を果たすアニメのキャラクター「レティシア」がきちんと設定されていないこと。その作品はファンタジー系なのか? 日常系なのか? ロボット物なのか? そしてどのような物語が展開されているアニメなのか?
 レティシアというキャラクターは、どんな外見、性格なのか? 物語の中で、どのような役割を果たすのか? これらが全く描かれていません。ですから、レティシアに夢中になっている連也や、アニメオタクたちの言動にもリアリティが感じられませんでした。

 これは本作に限りません。小説の中で重要な役割を果たす事物は、きちんと設定しておきましょう。そこをおろそかにして「なんとなくこんな感じ」としか書いてないと、読者は「手抜きだ」としか感じません。作家によっては、小説に登場しないものであっても一種の「裏設定」として細部まで考えておきます。そうやって、小説というものは厚みを増すのです。

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