第14回『このミス』大賞 1次選考通過作品 野口浩孝

過去のいじめ自殺が事件の発端なのか
発見された刺殺死体が過去を蘇らせる
じっくり読ませる本格派警察小説

『渇いた闇』野口浩孝

 横浜市内で、若い男が刺殺されて発見された。神奈川県警の池内は、被害者が誰であるか気付いた。四年前にいじめが原因で高校生が自殺する事件があったのだが、そのいじめ「加害者」三人のひとりだったのだ。
 池内は、自殺した高校生の兄で神奈川県警所轄刑事だった山下英樹を調べる。山下は事件当夜、現場のすぐ近くにいた。あまりにも怪しすぎて、不自然だった。池内はさらに調査を進め、やはり四年前のいじめ加害者のひとり大西が、大金を手にしていた事実を知る。だが、事件はそれだけでは終わらなかった……。
 ガチガチな本格派警察小説である(但し群像劇ではなく、基本的に池内が活躍する)。架空の土地ではなく、実在の場所――主に横浜界隈――を舞台とする「神奈川ミステリー」である分、しっかりとしたリアリティを感じさせてくれる。(昨今のようなネット社会では、実在の地理で下手なことを書くとすぐツッコミが入るので、その勇気は讃えられるべきであろう。)
 奇をてらわず、ストレートに物語と取り組んでいるところが好感が持てる。池内が地道に捜査をするくだりも、警察内部の人間関係で衝突があるくだりも、過不足ない。登場する警察官たちはしっかり書き分けがされており、読んでいて誰が誰だか分からなくなることもほとんどなかった。
 文章は(時々瑕疵はあるものの)総合すると好成績だった。テーマは重厚だが、内容に見合った文体で書けており、どんどん読ませてくれた。一次選考をする際には、ひっかかりのある文章「マイナスポイント」に遭遇するとどんどんチェックしていくようにしているのだが、本作に関しては読み終わってから改めて原稿をめくってみて、気になるところはごく僅かだった。
 物語の結末部分はもう少しだけ整理が必要かもしれないが、一次選考は十分通過できるレベルである。

(北原尚彦)

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