第14回『このミス』大賞 1次選考通過作品 城山真一

必要なお金のかわりに、
自分の最も大切なものを差し出せますか
――金を通じて人の心を描き出す小説

『ザ・ブラック・ヴィーナス』城山真一

 金に困っている人を助けたいという思いでメガバンクに就職したが、その内情に失望して三年で退職した百瀬良太。彼は、零細企業を営む兄の金策の過程で、“黒女神”と異名をとる女性と知り合う。二礼茜というその女性は株取引のエキスパートであり、その技量を活かして依頼人に大金をもたらす――依頼人が本当に大切に思っているものと引き替えに。兄が必要な資金を得るかわりに、良太は二礼茜に差し出され、助手を務めることとなった……。
 老舗の和菓子屋の主には娘の教育資金を要求し、人気歌手だった娘の死因の口止めのための金を必要とする父親には、娘の未発表曲を要求する。そうした個々のエピソードが、まずはきちんとしたドラマになっている点を評価したい。なぜ金を必要とするのか。大切なものへの“黒女神”の要求を依頼人はどう判断するのか。金を得た後になにが起こるのか。作者はそこをきちんと描いている。
 しかもこの作品、そうしたエピソードの連続でありながら、そこに大きなストーリーが仕込まれているのである。“黒女神”は何者で何故こうした活動をしているのか。作者は終盤でそれを提示し、クライマックスに壮絶な経済バトルを用意している。金と人という枠組みを維持したまま、実にスリリングな闘いを描ききっているのだ。ここも評価したい。
 さらに、百瀬良太の物語としてもきっちり読ませる。銀行に失望した彼が、“黒女神”の助手として世の中を知っていくという、ある意味“お約束”のストーリーに加え、良太の拉致監禁という想定外の展開(だが億単位の金が動く世界を描いておりこうした犯罪が起きても不思議ではない)も交えられており、読みどころには事欠かない。
 そして結末。ここもなかなかとんちが効いていてよい。総じてきっちりと読ませるエンターテインメントなのである。
 評価が分かれるとすれば、リアリティ(金の必要性を巡るあれこれ)と、ファンタジー(二礼茜の天才性や後半で明かされるある枠組み)とのバランスか。ファンタジーを“リアリティの欠如”と受け取る読者は、本書に辛い評価を与えるかも知れない。そうした危惧はあるものの、一次で落ちるような作品ではないと判断する。

(村上貴史)

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