第14回『このミス』大賞 1次選考通過作品 村上暢

舞台は上空三〇〇〇メートル。
武装ゲリラが巨大飛行船で起こした人質事件を解決せよ!

『ヘリオス・フォーリング』村上暢

 正直いって二次選考では苦戦しそうである。そんなことを書いて二次選考委員に先入観を与えるのもどうかとは思うのだが、うーむ。苦戦しそうなのだ。なにしろこの作品、私の大好きな“軽冒険小説”なのである。だが、この分野の小説はなかなか推されないのがこのミス大賞二次選考会の現実である。詳しく知りたい方は、第九回の二次選考の選評を読み返してみていただきたい。
 それでもなおこの『ヘリオス・フォーリング』は推したい。推さずにはいられない。痛快で、機知に富んでいて、おまけにこの小説では空も飛んだりしていて、とことんラブリーなのである。とても。
 テロがはびこる二十一世紀。飛行船が新たな軍事支援技術として見直されるなか、ある新興の民間軍事会社が、軍用の巨大飛行船ヘリオスを開発した。ヘリオスは二百人もの乗組員とともに、二ヶ月は地上に降りないという試験飛行に臨む。その最中のことであった。三千メートル近い上空で、ミスター・ウルフを名乗る男が率いる武装ゲリラ“暁の狼”にヘリオスがハイジャックされた。東南アジアのロンカ王国の状況改善が目的だという彼らは、視察目的でヘリオスに乗り込んでいた軍人たちを人質に、政治犯の釈放を要求する……。
 で、この高空での人質事件に、主人公が立ち向かうわけだ。まずは自分と仲間の知恵で。後半に入ると、助っ人の技量と知恵も借りて。
 この助っ人の活躍が痛快だ。腕が立つだけでなく、あれやこれやと本当によく知恵が回るのである。これはすなわち著者のセンスだ。主人公と助っ人のテンポの良いアクションのなかに、次の逆転劇のための伏線が仕込まれていたりして、読者は心地よい納得感とともにページをめくり続けられるのである。
 主人公が主人公として動き出すのが遅いという不満はあるものの、主人公と助っ人とヒロインのキャラクター造形も素敵だし、宙に浮く飛行船という舞台もしっかりと活かしきっている。全体として軽みのバランスもとれている。つまりは十分に満足のいく軽冒険小説なのだ。おれは推すよ。

(村上貴史)

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