第14回『このミス』大賞 1次選考通過作品 堤リュウカ

大きな虫の体内に潜り込んでみよう
救われるよ――

『飼育瓶』堤リュウカ

 妙な手紙のような気はしたのだが、更新手続きについて、という言葉を何となく信じて、見堂はこの建物まで来てしまった。太すぎる煙突のような灰色のくすんだ建造物。そこで彼は大学の同級生だという高畠と会う。見堂は覚えていない相手だったのだが。
 係員らしき人物に誘導された見堂は、頭上に奇妙な代物があることに気付いた。大きな長いエメラルド色の物体。透明で水っぽい。それが天井の針金状の構造体に拘束されているのだ。白衣の男が見堂のもとに現れ、それは“虫”だという。若い虫だそうである。その体内に入ると、傷などが治るとのこと。この場に集まった十二人が選びうる選択肢は三つ。虫の腹に入るか、あるいは、ここで自殺するか、あるいはそのいずれを選ぶかをタイムリミットまで迷い続けるか。見堂を除く他の面々はもともと虫に入るつもりでここに集まっていたようで、一人また一人と虫の中へ入っていった……。
 その直後の見出しは「参加者07若虫内05」となっている。そう。この作品では、虫の内外の人数が表示されるのだ。このあたりの小技をまずは嬉しく感じていたのだが、この作者、ただ者ではない。その人数表示の小技に後半で変化球を交えてくるのだ。物好きの心を読んだかのように。
 そればかりではない。虫の中と外という世界(それはそれで実に奇妙なのだが)という構図にも変化を加える。内からも外からも揺さぶるのだ。それも読者が予想もできないかたちで。従って物語は読み手を全く退屈させないものとして仕上がる。
 こうした巧みなプロットを持ちつつ、生理的なおぞましさもしっかりと伝えてくれる文章も素敵だ。ネチャネチャしているだけではなく、鉱物の様なテイストもあったりして、肌感覚としても退屈とは無縁だ。
 結末がもうひと味ドロッとしていれば、という物足りなさは残るが、全体としてはインパクトも筆力も十分。爽快さとは無縁だが二次選考には当然残すべき一作だ。

(村上貴史)

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