第14回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史氏コメント

『死神の審判』鳴海統

村上貴史コメント

 例年より次回作に期待として言及する作品の本数が少ない。裏返して言えば、プロット、文章、セリフ、などなど、いずれもが「書きっぱなし」という(そう読める)応募作が多かった。以前であれば、文章も展開もそれなりにしっかりとしており、少なくとも主人公はくっきりとしていて、真相を明かす段になって無理が露呈する、といったタイプの応募作が少なくなかったが、今回はそのレベルのものも少なかったのだ。そうした状況であるが故に、「次回作に期待」とするのは、今年は一作だけ。鳴海統『死神の審判』だ。
 冤罪をテーマにしたミステリである。息子が二十四歳で逮捕され、死刑が宣告された。父親は息子の無実を信じているが、息子は自供してしまっている。自供に追い込まれてしまったのだ。そんな父親のもとに、「警察によって捏造された証拠品がある。隠蔽された目撃者を探せ』という手紙が舞い込んだ。父は息子の潔白を明らかにするチャンスと捉え、動き始める……。
 落ち着いた筆致に好感が持てるし、法制度や警察の動きなどにも充分なリアリティが感じられる。冤罪というテーマの掘り下げもきちんと行われていてよい。しかしながら、全体として淡泊すぎる。まずはストーリーが淡泊。流れが直線的だし、緩急にも乏しい。強調してみせる部分と、いざというときまで隠しておく部分の整理もない。また、登場人部との感情も淡々としている。特に無実であるにもかかわらず死刑を宣告された息子がそうなのだ。父親の憤りや焦り、無力感なども同様に淡泊。一応書いてはあるが、希薄であり、淡泊な物語という印象を変えるには全く物足りない。次回応募時には、自分の描きたい物語を、どうやって読者に伝えていくか――特にプロットとキャラクター――に注意を払っていただければよいのではないかと考える。
 その他、次回作に期待のレベルには達していないが、相原罫『35classmates』や家原英生『ヴィラ・アーク』も気になった。前者は断片を積み重ねて全体を語るという(いささか手垢のついた)構造の物語だが、断片の並べ方に工夫が感じられた。しかしながら、一つの物語としてのストーリーの魅力や結末の衝撃に欠ける。後者も造りは丁寧でよいのだが、ところどころ冗長で冗漫になっている。知識を語りすぎなのだ。結果としてストーリーがぼやけてしまう。とまあ欠点を述べてしまったが、それでもなおここで語りたくなる輝きがあったのは確かだ。期待と断言できるほど確固たる手応えではないが、紹介はしておきたい。

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