第14回『このミス』大賞 次回作に期待 福井健太氏コメント

『マウザーの視点』龜野仁
『カナシミスギナとジカンゼット』伊野葵
『パテントフォール』南原詠
『リリ子』黒川露圃

福井健太コメント

 募集要項に「ミステリー&エンターテインメント」とあるように、本賞の対象には娯楽性の高いSFやファンタジーなども含まれる。これは過去の受賞作や”隠し球”からも明らかだ。そして(乱暴に言えば)没個性的なミステリーよりも、工夫を凝らした話のほうが期待感を抱かせる。この欄ではそんな四篇を取り上げたい。
 龜野仁『マウザーの視点』は一挺のモーゼル拳銃を核にした犯罪小説。ドイツの大量殺人に使われたモーゼルは中国で日本兵に鹵獲され、岡山県の”三十人殺し”に関与し、やがて暴力団の抗争を引き起こす。つまりは妖刀譚のバリエーションだが、拳銃の存在そのもので人間を動かし、暗示的な幕切れに収束させる趣向はベタなりに効果的だ。
 伊野葵『カナシミスギナとジカンゼット』は、土筆に似た”カナシミスギナ”が胞子を撒き、人々に哀しみを蔓延させた世界の話。タイムスリップとパラレルワールドの設定を整理し、プロットと分量を切り詰めれば、独創的なファンタジーの佳作になり得たかもしれない。
 専門知識を前景化した”お仕事小説”の新種として、南原詠『パテントフォール』は興味深いテキストだった。新米弁理士を主役に据え、企業間の特許侵害裁判を辿るストーリーには、殆どの読者が知らない情報や視点が盛られている。裁判の肝になるポイントを解りやすく説き、キャラクター造型や枝葉のプロットで娯楽性を増せば、化ける可能性は十分にあるだろう。
 黒川露圃『リリ子』は3Dプリンタで理想の女性を作ろうとした男の悲劇。統合失調に陥った主人公の(傍目には異常に映る)真摯さは深い孤独と哀愁を感じさせる。狂気とフェティシズムの吐露だけではなく、源氏物語を踏まえた分析や命名、淡々とした脚注などの細工を施し、苦いユーモアを漂わせているのも面白い。あとはプロットに動きや広がりが欲しかった。

 → 通過作品一覧に戻る