第14回『このミス』大賞 1次選考通過作品 香川伸夫

製パン会社資材部の30過ぎのOLは犯罪者
リストラされそうになって会社に反撃に出る
あの手この手の違法な手段が新鮮

『麦穂の檻』香川伸夫

 蜷川由梨は、麻薬として使える製菓用の添加剤をネットで知り合った相手に横流しして、無事に取引を終えると、すぐに「知っているぜ!」という発信人不明のメールを受け取ってしまう。なかなか思い切った始まり方で、このテンポが最後まで変わらずに、というよりエスカレートしながら話が進んでいく。
 地方の短大を出て上京して13年、仕事と男とお金に恵まれなかったから、と犯罪に手を出す女主人公を肯定している書き方には感情移入できないのに、職場や同僚のいかにもありがちな様子、犯罪の手口などテンポよく話が進むので、だんだん気にならなくなってくることに驚かされる。
 不況で経費削減とリストラが進行中で、由梨も削減策を提出しなくてはならなくなり、中間管理職たちのパソコンをこっそり覗くと、自分がリストラリストに入っていた。
 部課長たちの裏金の証拠を握って、リストから由梨を外させる過程で会社ぐるみで農薬汚染小麦を使った事実も掴み、もっと上層部の悪と対決することになる。
 まあ、都合よく進みすぎる点や後輩のステレオタイプのばかさ加減など、浅い印象はずっとつきまとう。それでも「きたねえ手を使いやがって」となじられながら、平気であらゆる手を次々と繰り出すこんな女主人公は稀で、それだけでもお手柄に思えた。
 セクハラ課長のリークで週刊誌は来るし、ガマンしてた後輩たちの秘密は社内ネットの掲示板に誇張して載せて大恥かかせるし、社長は辞めるし、殺人も起きてクセのあるヤクザも絡んできて、収拾つかなくなったところでやっと終ってほっとしました。
 まあ、会社の仕組みの悪用の仕方、というジャンルにでもなるんでしょうか。バックグラウンドを持たない小悪党のOLを主人公にした着想は評価できます。

(土屋文平)

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