第14回『このミス』大賞 1次選考通過作品 雄太郎

3000人が住む中年単身者限定マンションで
奇妙な人たちが奇妙な殺人事件に遭遇
特異な設定をリアルに描ききる力作

『ロンリー・プラネット』雄太郎

 福岡で冴えないエンジニア生活を送っていた桑田は、ネット通販王の建てた地元の中高年独身者専用マンションに住むことにする。その社長も他の入居者と同じワンルームに住んでいるという設定である。
 40歳過ぎても恋愛経験のない男にとって、安い終身利用権は魅力だったし、過去に2件の殺人事件があっても気にならなかった。この導入部が、無気力に近い男を主人公にしているのに、入居面接や結婚している弟との会話など、不思議なリアリティで読ませる。入居者のおじいさんおばあさんたち、中年男たちのどこかずれたたたずまいの他に、おつかいバイトのために潜りこんでくる小学3年生のガブという人物配置が効いている。
 慣れてきた頃、桑田は屋上で燻製作りを始めて、本を読んでいた佐倉という女性と知り合う。入居者が室内で殺される事件は続き、少年探偵気取りのガブからいろんな入居者情報を得ても何もわからず、事件は思わぬ形で解決する。主人公らしきことは何もしない。ただこれまでどおり仕事に行き、屋上の燻製作りに精を出し、知り合いも増えてオーナーに燻製の店を出せと言われたりしながら、佐倉への思いでぐじぐじしている。
 もちろん意外な犯人や佐倉の事情が明かされる結末はそれらしくはなっているものの、驚きや安堵感とは違う味わいで、とにかくヘンテコな余韻のある小説なんです。
 文章がいいのと、設定の奇抜さと、静かな語り口で独自の世界を創り上げていることを評価しました。現代の閉塞感を表現せずにはいられないのは、村上龍さんなんかと共通の時代の空気が書かせた小説といえるかもしれません。
 ここから独自の世界を創りながら、よりエンタテインメント性の強い方向へ進むのは、そうむずかしくない気がします。

(土屋文平)

通過作品一覧に戻る